音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、本来のサゲが通じにくいからと後半を演らないことが多い『お化け長屋』を、桃月庵白酒と三遊亭兼好が前半の可笑しさを後半にもつなげて爆笑させた様子についてお届けする。
* * *
夏になると幽霊やお化けにまつわる落語が高座によく掛かる。『お化け長屋』もそのひとつ。便利に使っている空き家に誰も越してこないように「幽霊が出る」という作り話をして、一人目は見事に撃退したものの、次に来た職人は「家賃は要らない」と聞いて大喜び、杢兵衛が語る怪談噺に動じることなく引っ越してきてしまう、という噺だ。
この噺、大家に無断で「家賃は要らない」と言ってしまった杢兵衛が、引っ越してきた職人を追い出そうと長屋の連中の力を借りて作り話を再現するのが後半の展開。幽霊だけでなく大入道も出そうと、按摩が上半身、別の男が下半身役で布団に寝るが、職人が親分を連れ帰ったので下半身だけ逃げてしまう。
「按摩を残して帰るとは尻腰のねぇやつだ」「へぇ、腰は先に逃げてしまいました」……これが本来のサゲだが、通じにくいうえに面白くないので、あえて後半まで演らず、杢兵衛を職人が翻弄する可笑しさを描いて「あいつ財布持ってっちゃった」でサゲてしまう演者が大半だ。
だがこの夏、前半のテンションをそのまま保って後半でも爆笑させる素敵な『お化け長屋』に2回出会った。桃月庵白酒と三遊亭兼好だ。