秋場所中の9月17日、元関脇・逆鉾の井筒親方(享年58)が死去した。関係者の注目を集めているのが年寄株「井筒」の行方だ。力士が引退後に親方として相撲協会に残るためには、105ある年寄株のうちどれかを取得する必要がある。協会関係者がいう。
「かつては高額で年寄株が売買されるのが当たり前でした。現役時代に実績を残しても、年寄株を買うための資金を出せる有力タニマチを抱えていないと、年寄として協会に残れなかった。年寄株の相場はバブル時代には5億円まで高騰したとされ、領収書のない“裏のカネ”で支払われるから、過去にはいくつもの事件が起きた。
1996年には元横綱・初代若乃花からの年寄株『二子山』の譲渡にあたり、実弟である元大関・初代貴ノ花が後援会から集めた3億円について、東京国税局から申告漏れが指摘されている。年寄株を持つ親方が亡くなれば、その名跡証書は夫人である女将さんが受け継ぎ、転売相手を探すかたちだったが、年寄株が相続財産として課税されたという話も聞いたことがない」
2014年に相撲協会は公益財団法人に移行し、新法人の定款では年寄名跡は売買が禁止され、協会が一括管理することになったが、実態としてどこまで変わったかは疑問が残っている。
「過去に高額な金銭で取得した親方への救済策として、年寄株保有者の後継者任命権や、継承者から顧問料・指導料を受け取ることが認められた。そうなると、指導者の資質を備えているかどうかより、カネを出せる有力タニマチがいるかで、後継者が決められていくことになる。継承者が指導料を支払った場合、年1回の報告義務が課せられ、相撲協会の危機管理委員会で内容の監査をすることになっているが、そもそも指導料の額も決まっていないし、売買と何が違うのか明確でなはない」(同前)
年寄株の数は105しかなく、所有する親方衆の投票によって理事が決まり、その理事たちの互選で理事長が決まる以上、「1票」がどこへいくかは、角界における権力闘争の行方にもかかわってくる。年寄株「井筒」はどうなるのか。若手親方のひとりがいう。