フェアプレイを重んじる紳士のスポーツ──英国発祥のラグビーは、肉体同士をぶつけ合う荒々しい競技ながら、他者への礼儀や公平さなど、その精神性をこそ重視している。そうした特徴は、英国エリート私立校でラグビーが必修化された経緯に秘密があった。歴史作家の島崎晋氏が解説する。
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ラグビーのワールドカップが開幕した。日本での開催は今回が初めて。野球やサッカーに比べると、普及度や認知度の点で大きく劣るが、今大会を機会に大きな変化が起こることを期待したい。
ところで、ラグビーの本場である英国のエリート私立校ではラグビーが必修ということをご存知だろうか。そうなった背景には意外な事実が秘められていた。
英国のエリート私立校はインデペンデント・スクールと呼ばれ、俗称をパブリック・スクールという。公立学校を思わせる名称だが、これは私塾や個人の家での教育と差別化するためつけられたもので、公立ではなく私立で、なおかつ全寮制を原則とした。
教会付属の無償の学校は6世紀から存在したが、脱宗教化の流れが表われ出した15世紀から有償の私立学校が増え始めた。当初は貴族の子息のみを対象としたが、中流階級が増えるに伴い、そのなかの上流層をも受け入れるようになった。
エリート私立校と聞けば、規律正しいイメージが浮かぶだろうが、ある時期までのパブリック・スクールは無秩序かつイジメと暴力のるつぼだった。生徒らによる暴動がひどいときには教員だけではどうにもならないので、それを鎮圧するため義勇軍の応援を仰いだことさえあった。
学級崩壊どころではなかったわけだが、そうなった理由の一つとして、生徒が上流階級の子息であったのに対し、校長をはじめ教員すべてが中流階級の出身で、生徒から見下されていたことが挙げられる。そのために言うことを聞かない生徒に対する教員の体罰も過剰になりがちで、上級生が下級生を奴隷のごとくこき使う「ファギング」という悪習も蔓延していた。