【書評】『恐竜まみれ 発掘現場は今日も命がけ』/小林快次・著/新潮社/1450円+税
【評者】香山リカ(精神科医)
この夏、ちょっと落ち込んでいたら、弟一家が恐竜ショーに誘ってくれた。気乗りもしないまま出かけた私は、2億年も前から地球を支配していた恐竜たちの世界に、小学生の姪っ子以上に夢中になってしまった。そして、「恐竜には現代人への癒し効果がある」と確信する中で出会ったのがこの本だ。
本書は恐竜の生態について研究する学者の“お仕事エッセイ”なのだが、これがまた抜群に面白い。化石発掘の七つ道具を持ち、今日はアラスカ、明日はモンゴルへと旅立っては、グリズリーや砂漠などとも闘いながらはるか昔のホネのかけらを見つけて大興奮。恐竜博士のロマンあふれる毎日がイキイキとつづられている。
とくに印象的だったのは、博士が勤める北大のある北海道での、新種の恐竜「むかわ竜」の全身骨格発見についてつづられた章だ。むかわ町の博物館の学芸員から「恐竜の尾椎では」という写真がメールで著者に送られてきたのが2011年。これは恐竜の化石だ、と「一気に身体中の血液が騒ぎ出した」という著者らが、計画を立て資金を含めた準備をしつつ発掘を始め、全身の化石がどうにかそろったのは、なんと2014年の夏のこと。「来月までに結果出して」と言われる現代のビジネスとは、時間の流れがまったく違う。
そしてそれからさらに4年、化石のクリーニングや骨格の組み立てが終わり、記者発表を終えた翌日、北海道を大きな地震が襲った。博物館は震源地に近かったが、学芸員からは「町は大変ですが、むかわ竜は無事です」とモンゴルに旅立っていた著者に連絡が来た。