日韓の外交交渉で合意しても、韓国で大統領が交代すると反故になり、交渉のやり直しを迫ってくる──それが今までの歴史だった。人権派弁護士出身の文在寅大統領も就任前は、“穏健な民主派政治家”と評されていたが、就任すると、朴槿恵大統領時代の前政権が結んだ日韓の慰安婦合意を白紙に戻した。
そうした態度は日本から見ると、「国家間の取り決めを守らない国」に見えるが、それは韓国の憲法が関係していると見ることができる。
韓国の大統領(任期5年)は憲法上、米国の大統領より強大な権限を与えられている。行政府の長として日本の内閣に相当する「国務会議」を主宰し、国務総理(首相)や大臣(行政機関の長)を任命する権限を持つだけではない。
韓国憲法では〈大統領は、条約を締結し、批准し、外交使節を信任し、接受し、または派遣するとともに、宣戦布告及び講和を行う〉(73条。有信堂高文社刊『世界の憲法集』の尹龍澤・創価大学教授による訳文。以下引用は同書による)とされ、その権限は国軍を統帥(74条)し、非常事態が起きたときの命令権(76条)、戒厳の宣布(77条)から大法院長(最高裁長官に相当。任期6年)の任命権(104条)、憲法改正の発議権(128条)まで及ぶ。
憲法学者の甲斐素直・日本大学元教授は「米国の大統領より広範囲な権限を与えられている」と指摘する。
「いわゆる宣戦布告の権限は韓国では大統領だが、米国では議会にある。条約締結権も米国では上院の助言と同意で行なわれ、大統領には権限がない。非常事態の大統領権限も米国の憲法にそのような規定はありません。また、予算編成権も韓国では大統領が主宰する政府に帰属しているが、米国では議会が持つ」