音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、落語家生活30周年記念の落語会を開いた林家彦いちの、唯一無二の独創性についてお届けする。
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8月26・27日の2日間、林家彦いちが落語家生活30周年記念の落語会を銀座の博品館劇場で開いた。題して「噺家になって30回目の夏なので、銀座で、祝ってもらいます。」。僕は初日に出掛けた。ゲストは春風亭昇太、三遊亭白鳥、そして「熱血スタンダップコメディ」の清水宏。清水と彦いちは20代から一緒にネタを創り、見せ合ってきた仲だ。
一番手の清水は客席後方から登場、観客全員にスタンディングオベーションを要求した後は、海外での入国審査で体験した爆笑エピソードをハイテンションで語り倒した。
続いて白鳥が演じたのは『最後のフライト』。悪い大人になった小学校時代の教え子を先生が叱りに来る噺で、通常はA首相が主人公だが、今日は一日限定の「落語協会会長・林家彦いち」ヴァージョンだ。
彦いちの1席目は、お盆に里帰りした姉と実家の妹が亡き父を偲んで互いに「……という話はどう?」とまことしやかな作り話を披露し合う場面で始まる新作落語『という』。
そんな娘たちを「父さんは薬局に行ってるだけじゃないの!」と一喝した母が携帯に掛かってきた電話に出ると、父が交通事故に遭い女性が付き添っているとの連絡……「という話はどう?」とこれまた作り話。父が現われ「お前たちが俺を肴に話してるのは嬉しいよ」と満足そう。