映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優の岡本信人が、数々のホームドラマで身近な存在であり続けた芝居について語った言葉についてお届けする。
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岡本信人は一九六八年に始まるテレビドラマ『肝っ玉かあさん』(TBS)で物語の舞台となる蕎麦屋の出前持ち役を演じ、それ以降も『ありがとう』『渡る世間は鬼ばかり』などのTBSホームドラマに出演、視聴者にとって身近な存在であり続ける。
「『肝っ玉かあさん』『ありがとう』は視聴率がよかったものですから、道を歩いていても『おい元気?』『頑張れよ』と気軽に声を掛けてくる人がいましたね。『おい、蕎麦屋』なんて言われて『はい』と思わず返してしまったこともありました。
役づくりの上で身近さを意識したことはないですが、そういうのがあると成功したかな、という気はしています。
出前持ち役の時、僕は本当に出前持ちになっていました。演じているという意識ではなく、格好良く言うと『役を生きてる』みたいな。そんな感じですね。
こういう奴がいるだろうなっていうのが自分の中にあるんだろうと思います。大衆の中に紛れ込んでいる自分がいつもいるので、カメレオンみたいに周りの色にすっと合わせちゃうことをどこかでしているんでしょう。
ですから、周りの中で自分だけ目立つことはしません。ドラマの流れの中でちゃんと一つのピースになっていないと。ジグソーパズルでいうと、赤の中にいきなり黄色のピースが入っちゃいかんよ、と。そういう周りを読む、ということを知らず知らずのうちにやっていたのかもしれません」
多くの名優がホームドラマでの日常的な演技に苦戦してきたが、岡本はそれを飄々と超えてきた。どのような秘訣があるのだろうか──。