今年も10月7日より続々とノーベル賞受賞者の発表が行われる。近年、日本人の受賞が続いているが、今年も日本人が選出されれば、また列島が受賞フィーバーに沸くことになるだろう。よく、偉大な科学業績には「〇〇定理」や「〇〇法則」など発見者の名前がつけられるが、じつは“第一発見者”ではないことが多いという。いったいどういうことなのか──。ニッセイ基礎研究所主席研究員の篠原拓也氏が具体例をもとに紹介する。
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自然科学や社会科学では、新たな事実が発見されたり、新理論・新概念が提唱されたりすると、その事実や理論・概念に、発見者や提唱者の名前が付けられることが多い。
代表的なものとして、「ピタゴラスの定理」がある。直角三角形において、直角をなす2辺の平方の和は、他の1辺つまり斜辺の平方に等しいというものだ。日本では、中学3年の数学で図形問題として出てくる。平方が3つ出てくるので、三平方の定理とも呼ばれている。この定理には証明の方法がいろいろあって、それをまとめた本がいくつも出版されている。
ピタゴラスの定理というくらいだから、きっとピタゴラスが最初に提唱したのだろうと読者の皆さんは思うかもしれない。ところが、実際には、ピタゴラスが生まれた紀元前570年頃よりもはるか昔の、古代バビロニアの時代に作られたとみられる紀元前1800年頃の粘土板が発掘されていて、そこに三平方の定理のことが書かれているそうだ。
じつは、この例のように、発見者や提唱者の名前が付けられている定理や法則であっても、それ以前に先人が発見していたというケースは数多くある。
アメリカの統計学者スティーブン・スティグラーは、1980年に「スティグラーの(名称由来の)法則(Stigler’s law of eponymy)」という著書の中で、〈科学的発見に第一発見者の名前が付くことはない〉という法則を主唱している。
この法則の例として、有名なものをいくつか挙げてみよう。