今年、『3年A組―今から皆さんは、人質です―』、『あなたの番です』などのヒットドラマを輩出した日本テレビがこの秋ドラマで攻勢をかけている。異例の構成のドラマを相次いで投入しているのだ。今、日テレが攻める狙いと事情とは? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
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10月に入ってさっそく2019年のラストを飾る秋ドラマがスタートしていますが、業界関係者の間では、日本テレビが手がける3つの作品が話題を集めています。
なかでも驚かれているのが、12日スタートの『俺の話は長い』。31歳のニート・岸辺満(生田斗真)が主人公のホームコメディなのですが、何と「30分×2話」という異例の構成だったのです。
次に、9日スタートの『同期のサクラ』は、過疎の離島で育った北野桜(高畑充希)が建設会社に入社し、同期の仲間たちと過ごす10年間を描く物語。こちらも「1話で1年ずつ描いていく」という珍しい構成です。
さらに、13日スタートの『ニッポンノワール―刑事Yの反乱―』は、「主人公の遊佐清春(賀来賢人)を含めた刑事全員が容疑者」という異色のミステリーですが、注目すべきは「『3年A組―今から皆さんは、人質です―』の半年後」という設定。さらに、「『3年A組』に登場した宮城遼一(細田善彦)、本城諭(篠井英介)、喜志正臣(栄信)がそのまま出演する」ようです。
いずれも他局のドラマでは見られない異例の構成ですが、どのような狙いがあるのでしょうか。
◆「ドラマを1時間見てもらう」ことの難しさ
『俺の話は長い』を30分×2話にした理由について櫨山裕子プロデューサーは、「世の中のテンポもドラマのテンポも早くなっている」「30分なら気軽に見やすいのでは」と語っていました。確かに、短時間の動画が多いネットコンテンツが浸透したことで、ドラマを1時間見続けることへのハードルが上がっている感があります。
ちなみに、第1話のタイトルは「すき焼きと自転車」「寿司とダンボール」の2つ。櫨山プロデューサーは「かつてあったような家族みんなで笑って泣けるホームドラマを作りたい」ともコメントしていましたが、だから家族そろって見られるアニメ『ちびまる子ちゃん』『サザエさん』(フジテレビ系)のような複数立てにしたのではないでしょうか。
『同期のサクラ』の「1話1年」という構成は、時系列がわかりやすく、変化を感じさせやすいというメリットがある反面、「1年間を1話でまとめる」のは脚本家にとって至難の技。しかし、同作の脚本を手がける遊川和彦さんは、1992年の『十年愛』(TBS系)でも1話1年の構成で11話を書き切った実績があるだけに、不安はないのでしょう。
『ニッポンノワール』の狙いは、『3年A組』を手がけた福井雄太プロデューサーと脚本家の武藤将吾さんが同作でもタッグを組むという利点を生かし、話題性を高めるとともに『3年A組』ファンへのサービスになるから。視聴者にとっては、「今後さらなるリンクがあるかもしれない」という楽しみがあるのです。
いずれも、しっかりとした理由や狙いがあるだけに期待できそうですが、日本テレビが異例の構成を仕掛けるのは今秋の3作だけではありません。
◆昨年の大不振とバラエティの好調