近年、カナダでは中国系住民を中心に反日的な活動が盛んだ。州レベルや国家レベルで「南京問題」を追及する運動が続いており、その背後には中国の伝統的秘密結社「洪門(ホンメン。英語名チャイニーズ・フリーメイソン)」の存在が見え隠れする。21世紀のカナダに生き残った秘密結社の実態を探るべく、『もっとさいはての中国』著者の安田峰俊氏が現地に飛んだ──。
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「このビルが建ってから110年が経つが、やってきた日本人はお前が初めてだ」
2018年11月30日午後4時、カナダ・バンクーバーにある中華会館(*注)の会議室で、理事長のヒルバート・イウ(姚崇英)からものものしい挨拶で出迎えられた。
【*注:中華会館/現地の華人コミュニティを統括する組織。バンクーバーのチャイナタウンの一角にあり、秘密結社「洪門」のビルとは隣同士。安田氏はこの日、謎の秘密結社「洪門」の手がかりを得るべく、より公的な団体である隣の中華会館を訪れた】
彼は61歳にしては若々しい外見で、体型もスマートだ。本業の鶏肉卸売会社の経営に加えて、カンフー教室の先生をやっているからだろう。文化大革命時代に広東省潮州から香港に脱出し、やがてカナダに転居した移民1世なので、標準中国語で会話ができる。さらに60~70歳くらいの華人男性が3人同席していた。いずれも中華会館の幹部たちである。
「習近平政権は偉大だ。中国の歴史上で最も素晴らしい政権だと考えている。中国共産党なくして中国は立ち行かない。われわれはカナダ国民だが、祖籍の地である中国を深く愛し続けているのだ」
政治的な問題をどう尋ねるか迷っていた私だが、開口一番からヒルバートは饒舌だった。
40平米ほどの会議室の中央には祭壇があり、孫文の肖像画と「天下為公」と書かれた額が掲げられている。壁や棚には清朝時代の辮髪姿をした最初期のメンバーの写真をはじめ、過去の幹部たちの写真や、中華民国や中華人民共和国、カナダ政府から送られた表彰状やトロフィーが並ぶ。
中華会館はかつて中国国民党と非常に近い立場で、1949年の中台分断後も一貫して中華民国(台湾)を支持してきた。だが、中加国交樹立後の1978年に組織が「民主化」──。つまり、事実上は親中派住民に支配権を奪われ、中華人民共和国支持に鞍替えをした歴史がある。