国内

天才女流棋士・林葉直子 「余命1年」と宣告されて・前編

14才3か月で女流王将タイトルを獲得し(史上最年少)、その後10連覇した林葉直子氏(撮影/弦巻勝)

 彼女は輝いていた。将棋界に颯爽と現れた天才少女。大人の好奇な視線を浴びながらも、けらけらと笑い、男たちをなぎ倒していった。ドラマやCMに出演し、小説を執筆すればベストセラーを連発した。

 彼女は堕ちた。永世名人との不倫を告白し、将棋界と決別。孤独を埋めるかのように酒をあおった。肝硬変を患い、郷里福岡に戻った。5年前、余命1年を宣告された。

 彼女は現在も生きている。

 林葉直子、51才。今何を想うのか。元「将棋世界」編集長で、12才の頃から林葉を見てきた作家・大崎善生氏が彼女のもとを訪ねた──。

 * * *
 今から5年前のことになる。

 2014年の正月。1冊の本が出版された。ワイドショーなどで話題になり、やがて私の目にも零れ落ちてきた。それが「遺言」という題名の書下ろしで、著者は林葉直子とある。治療不可能な重度の肝硬変を患い、末期の病床からのメッセージをまとめたもの。

 死を間近にしたお騒がせ林葉の、最期の叫びという触れ込みであった。そのとき林葉は46才。もちろん死ぬような歳ではない。しかし手の施しようのない末期の肝硬変で、体重は38キロ、γ-GTPは1200を超えていた。

 東京で診てもらっている時から腹には腹水がたまり、医者から「お臍がぴょこんと飛び出したら終わりですから」と言われていた。「あっ、そうですか」と林葉は明るく笑ったが、実はすでに臍は飛び出していた。それが肌着に擦れて痛くて仕方なかった。東京から故郷福岡の病院に転院し、助かるには移植手術するしか道はないと告げられた。

 余命、1年。合併症を起こしたら、いつ死んでも不思議のない状態だった。

 本の中に編集部に最後の望みを聞かれ、「チャーシューを腹一杯食べたい」と答え、笑うやりとりがあった。さすがに胸が苦しくなった。

 完全に死を意識し、人生の瀬戸際にあることを受け入れ開き直っている姿がそこにはあった。

◆1980年──少女は美しく、聡明だった

関連記事

トピックス

氷川きよしが紅白に出場するのは24回目(産経新聞社)
「胸中の先生と常に一緒なのです」氷川きよしが初めて告白した“幼少期のいじめ体験”と“池田大作氏一周忌への思い”
女性セブン
公益通報されていた世耕弘成・前党参院幹事長(時事通信フォト)
【スクープ】世耕弘成氏、自らが理事長を務める近畿大学で公益通報されていた 教職員組合が「大学を自身の政治活動に利用、私物化している」と告発
週刊ポスト
阪神西宮駅前の演説もすさまじい人だかりだった(11月4日)
「立花さんのYouTubeでテレビのウソがわかった」「メディアは一切信用しない」兵庫県知事選、斎藤元彦氏の応援団に“1か月密着取材” 見えてきた勝利の背景
週刊ポスト
多くのドラマや映画で活躍する俳優の菅田将暉
菅田将暉の七光りやコネではない!「けんと」「新樹」弟2人が快進撃を見せる必然
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告(右)と父の修被告
「ハイターで指紋は消せる?」田村瑠奈被告(30)の父が公判で語った「漂白剤の使い道」【ススキノ首切断事件裁判】
週刊ポスト
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
「週刊ポスト」本日発売! 小沢一郎が吠えた「最後の政権交代を実現する」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 小沢一郎が吠えた「最後の政権交代を実現する」ほか
NEWSポストセブン