関西電力の役員ら20人が福井県高浜町の元助役・森山栄治氏(今年3月に90歳で死去)から総額3億2000万円相当の金品を受け取っていた問題は、関電側が会見で森山氏に怯えて返却できずにいたことを明かしたことから、関電で“Mさん”と呼ばれ絶大な権力を誇ったという森山氏の存在がクローズアップされた。森山氏を知る原発工事関係者は語る。
「森山さんは高浜町の助役を務める前に一時、役所に力を持つ人権団体に籍を置いていた。さらに当時は人材確保のために否応なく原発と関係を持っていた地元暴力団にも顔が利いた。行政も原発も押さえることができるのだから関電にとってこれほど頼りになる存在はない。助役を辞めた後に地元で原発警備会社を立ち上げて役員になったことも、関電としては歓迎していたはず。両者は一蓮托生だった」
2011年に刊行された『関西電力「反原発町長」暗殺指令』(宝島社)は、高浜原発を舞台にしたノンフィクションだが、原発警備会社(森山氏の会社とは別)の元社長の口からその影響力が語られる場面がある。
〈その人は、通称『エムさん』と地元(高浜町)では呼ばれていましてな。少なくとも原発にちょっとでも関わっている者で、このエムさんを知らん奴はモグリや、と言われるような人物なんですわ〉
〈地元対策に長けた関電いうんは、最初から、その地元の実力者を抱き込んで、反対する奴なんかを封じ込めてしまうんですな。あとは、利権やなんやかんやあるでしょ? 原発の町には。そういうんを、誰にも文句言わさんように(言わせないように)、あらかじめ実力者の“エムさん”を通して、地元に配分させるようなことをするんですわ〉
現在の報道を先駆けていたかのような発言だが、本の“主人公”は森山氏ではない。この元社長は、ある高浜原発関係者の依頼から、反原発を打ち出していた当時の高浜町長への暗殺計画があったことを告白する。警備に使う大型犬に噛み殺させるというもので、にわかには信じがたい内容だが、町長自身も「ワシの喉笛を凶暴な犬に食いちぎらせたろいう、話や」と狙われていたことを認めてしまう。“エムさん”こと森山氏は、こうした怪騒動が起きた高浜原発の“影の仕切り人”という位置づけで登場する。