父の急死によって認知症を患う母(84才)を支える立場となった女性セブンのN記者(55才・女性)が、介護の裏側を綴る。
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帯状疱疹を患ってすっかり元気をなくした母。記憶障害が進んで反応も鈍く、傾眠(けいみん)が目立つのが最大の心配となっている。安静にさせておくべきかとも迷ったが、心躍る芸術の秋! 母の好きな絵画鑑賞に連れ出した。
◆ふと見ればウトウト。目に見える母の老い衰え
認知症のわりに活動的で、意欲も食欲も旺盛だった母は今夏、帯状疱疹を患ったのを境にガラリと様相が変わった。体内でウイルスが大暴れしている時期に元気がないのはわかるが、投薬を続けること1か月、疱疹は治っても、以前の活気が戻らないのだ。
話しかけても反応が鈍く、何か分厚い殻に包まれているようだ。私の声が届いて理解するまでに時間がかかり、言葉を選んで返すにもタイムラグが。その間に気力が失せて結局、返答なしということもある。
「認知症の人にはシンプルな内容を短い言葉で伝え、答えを急かさない」という対応マニュアルの意味が、ここにきてやっと理解できる。
そして何より気になるのは日中の居眠りだ。帯状疱疹に気づくきっかけになった異変も、今まで見たことのないデイケア中の居眠りだった。私と話していても、ふとした沈黙で目を閉じる。必ず完食していた食事を、眠気に負けて残してしまうようにもなった。
普段の母の様子や血液検査結果も把握しているかかりつけ医はこう言う。
「特別な病気で傾眠症状が出ているわけではなさそう。だんだん機能が落ちてくるのはある意味自然なことなのよ」
わかってはいるけれど得心とまではいかない。自然な老いを大げさに憂えて無理に引き留めてはダメだけど…。複雑な思いを抱えながら、実はかねてから計画していた絵画鑑賞に連れ出すことにした。
◆対話型アート鑑賞で母の分厚い殻に風穴が!
母と一緒に参加したのは、対話型アート鑑賞会“アートリップ”。認知症の人とその家族、そのほかの芸術好き数人で、1枚の絵をじっくり鑑賞しながら対話する。専門的な評論ではなく、絵を見て思いつくまま、自由におしゃべりする趣向だ。
最初に鑑賞したのは『眠る羊飼女』(ニコラ・ランクレ作)。18世紀にフランスで描かれたもので、田園風景の中に居眠りする女性とその傍らに立つ男性。知識のない私と母、たぶん参加者全員も、一見して絵の意図は全然わからない。
「この男女、どんな関係でしょう?」と、まずコンダクターのひと声からスタート。
母はじっと絵を見ながらも無言だった。「しまった!」と私は焦った。思ったことを自由に発言するのは案外、難しいものだが、母には輪をかけて難題だったかも。まさか興味が失せて居眠り…!?