ラグビーワールドカップで快進撃を見せる日本代表チーム。桜のジャージを着た海外出身の選手たちが、日本を背負っている──。彼らはなぜ日本代表を選んだのか。日の丸の勝利のために戦うのか。ノンフィクションライターの山川徹氏が、彼らの想いと足跡を追った。
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「グーくん」とファンに愛されるのが、韓国出身の具智元(グ・ジオン 25才)だ。
アイルランド戦では、彼に大きな見せ場があった。日本代表4番のトンプソンルーク(38才)と12番の中村亮土(28才)のダブルタックルが決まり、アイルランドボールのスクラムでゲームが再開された時だった。
前半35分、スクラムの最前列に立つ3番の具が、相手よりも低い姿勢をとって、間合いをはかる。対するアイルランドのスクラムは世界屈指の強さを誇る。
具は自身のスクラム観を次のように説明していた。
「海外のスクラムは、個々のパワーにまかせて押してくる。体が小さい日本代表がパワーに対抗するには、スクラムを組む8人が結束するしかない。ひとつの塊になって、スクラムを組む8人全員の意志と力を1点に集中させて、相手のスクラムを分断していく。そんなイメージのスクラムが理想です」
その時、まさに具の理想のスクラムが実現した。
レフリーの合図で16人の大男たちが、ぶつかり合う。アイルランドのプレッシャーに対し、日本が耐える。次の瞬間、スクラムがぐらりと揺れた。すぐに日本が押し返して、アイルランドのスクラムを文字通り分断したのである。
普段は穏やかでおっとりした具が、雄叫びを上げ、渾身のガッツポーズをつくった。勝敗を左右する重要な局面で、自分たちが果たさなければならない役割を強く自覚していたのである。
具は、スクラムを最前列で支えなければならない「プロップ」というポジションを務める。
具の体のサイズは、184cm、122kg。太い下がり眉と、目を細めた笑顔に、おおらかで素朴な人柄がにじむ。プロップは、もっとも重量があり、パワーを持つ選手が担う。強いからこそ、優しさを備えた選手が多いポジションといわれる。彼もプロップらしい穏やかな青年だ。
「ぼくはボールを持って独走してトライするよりも、スクラムを押し込んで相手のボールを奪うことに快感を覚えるんですね」
1994年7月、具は韓国のソウルで生まれた。父は元韓国代表で、アジア最強のプロップと恐れられた具東春。具は、2才年上で、三重県鈴鹿市に拠点を置く「ホンダヒート」のチームメートでもある兄・智充と共に、小学6年生からラグビーを始めた。
意外にも父は、兄弟にラグビーを勧めたことはなかった。韓国ではラグビーが不人気なうえ、ケガに悩まされた経験があったからだ。
だが、才能ある兄弟が楕円球を触る姿を見た父のラグビー熱が燃え上がる。
「いい環境でラグビーをやらせてあげたい」と中2の兄と小6の弟をニュージーランドに留学させたのだ。数か月後には、両親もウェリントンに移り住む。日本でのプレー経験を持つ父は、2008年に大分県佐伯市への移住を決断した。
中学時代、具は父に叱咤され、涙を流しながら大分の山道を走っていた。
「スクラムマシーンになるな!」
当時の具は、170cm、100kg。しかし走力に難があった。かつてプロップは“スクラムさえ強ければ、フィールドプレーが不得意でも、走力がなくてもいい”と考えられていた。