年末の風物詩ともいえる「M-1グランプリ」決勝に向けて、今年も予選が行われている。そんな中、2018年に審査員を務めたナイツ塙宣之さんの漫才論『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』(聞き手・中村計/集英社新書)が好調だ。インタビュー【後編】は、ウケるネタとは何か、そして、様々な人気芸人についても伺った。
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◆練習しないほうがウケる理由
──塙さんのお話の中には、他の仕事でも役立ちそうなことがいくつもありました。たとえば練習をしすぎない。相手のあるパフォーマンスには少なからず通じる、一つの真理のような気がします。「練習を披露するという態度は、一緒に演奏する仲間の音を無視することになる」という趣旨の、あるジャズピアニストの言葉を思い出しました。
塙:漫才もお客さんと作っていくものなので、ガチガチに練習しないほうがいいんです。不思議なことに、ネタ合わせをしないでやったネタのほうが、本番でウケるんですよ。でもこれには理由があって、練習しなくてもいいネタというのは、ネタそのものが面白いし、自分たちに合っているから。つまり大事なのは練習よりも、ネタ作りなんです。
──ネタに関しては、「質より量」と言いますか、量をこなすことで質が上がってくる、と仰っています。
塙:売れなかった20代後半に一日一本のネタ作りをするようになってから、今でも毎日、短めのネタをブログに書き続けています。量をこなして初めて気づくことってあるんです。僕らの場合は、その気づきが、「ヤホー漫才」につながっていきました。だから、なかなか芽の出ない若手には、一本でも多くのネタを書きなさいとアドバイスしたい。
──ネタの素材はどこから見つけますか?
塙:漫才で表現できないものはないと思っているから、それはもう、すべてとしか言いようがないですね。
──もう一つ、ネタに「スッと入る」のがいいというのは、スピーチや会話、文章などに共通するところがあると思います。
塙:僕はスッと入るのが好きなんです。ただ難しいのは、漫才は早い「つかみ」が大事なんですね。だから、少しでも早くと、「前振り」につかみを入れてくる芸人がいます。でも、前振りではなく、ネタの中でつかむほうがいいと思う。水泳の飛び込みのイメージで、入りは水しぶきを上げずにスッと入るんです。で、最初のひとかき目かふたかき目でつかむ。飛び込む前にああだこうだと言いすぎると、スタートが遅れる気がするんですね。
スッとネタに入るコンビを見ると、ネタで勝負しにきているなと自信を感じるし、その後の期待が高まります。2018年のM-1では、入り方が気になった芸人が何人かいた中で、霜降り明星の入りはすごくきれいでした。