【著者に訊け】河崎秋子氏/『土に贖う』(つちにあがなう)/1650円+税/集英社
北見のハッカ油。札幌の養蚕。根室や別海のミンク養殖等々、かつて北海道で栄え、廃れていった、〈産業への悼み〉の短編集である。
自身、別海町出身の河崎秋子氏による大藪賞受賞後第1作『土に贖う』。羊飼いとの兼業作家として注目を集め、故郷の風土に根ざした骨太な作風で知られる河崎氏は、苦境においてなお明日を信じ、夢敗れた先達の姿を、本作でもあくまで渇いた筆致で物語化する。
多くは開拓民や労働者として流れ着き、幾ばくかの富をつかんだのも束の間、時代が変われば経済構造も変わり、全7編に描かれる大半は、失われし産業だ。元々北海道に根を持たない彼らの中にはそのまま流される者も次の夢を探す者もいたが、それでもびくともしない大自然だけが、今も北の大地に根を張っていた。
「うちは父が満州生まれで、新酪農村建設事業(1973年)の時に脱サラで別海に移ってきた戦後組なんです。地元の爺ちゃん婆ちゃんに聞くと、ここで昔は硫黄を掘っていたとか、金を掘ろうとして失敗したとか、過去の痕跡が方々に残っているんです。それも結構、ザツな感じで(笑い)。
それって普通はないことにされてしまう歴史ですが、そこに人がいて、生活していたのは確かですし、未だ地に埋まっているいろんな人のいろんな苦労を、私の場合は小説を通じて発掘しているところもあります」