音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、立川談春が独演会に取り込んだ落語と歌の「アンサーソング」という趣向により、異例のカーテンコールが行われた感動の一夜についてお届けする。
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立川談春と立川志の輔の落語にさだまさしがアンサーソングを披露した武道館公演について以前書いたが、この「アンサーソング」という趣向を談春が自らの独演会に持ち込んだ。8月27日から9月1日まで渋谷のシアターコクーンで行なわれた「三十五周年記念公演 玉響」だ。
談春の落語に対して音楽ゲストがアンサーソングを披露する六夜連続のイベントで、第一夜はゴスペラーズ、第二夜は尾崎世界観、第三夜・第四夜はaiko、第五夜は斉藤和義、第六夜はさだまさしが出演。僕は第一夜と第六夜に行った。ロビーでは公演パンフレット代わりの文庫本『玉響 -たまゆら-』(210頁/1000円)が会場限定で販売されており、各ゲストとの対談やエッセイ、歌詞などが載っている。
第一夜、談春は『子は鎹(かすがい)』を演じた。師匠談志の演出を受け継いだもので、カラッとした亀吉が魅力的だ。母が常日頃から「嘘をつくとお父っつぁんの代わりに玄翁でぶつよ」と言っている、という設定は談春オリジナル。父からもらった小遣いで買った青鉛筆で描いた「青空」(=父の思い出)の絵を家に置き忘れて鰻屋に行ったのは、母に届けさせようという亀吉の作戦だろう。
鰻屋で再会した元夫婦の二人は、明らかに今も惚れ合っているのに、相手の立場を斟酌し過ぎて再び離れそうになる。そんな両親を亀吉が「ちゃんと言えよ!」と一喝し、それぞれの本当の気持ちを相手にぶつけさせる。「別れた男女が再びやり直すドラマ」として濃厚に描いた談春の『子は鎹』に対するアンサーソングは、あなたの温もりをもう二度と離さないと歌う『冬物語』だ。