マンションの劣化を防ぐため、10~12年ごとに行うことが多い大規模修繕工事。その施工費用は住民が毎月コツコツと蓄えている「修繕積立金」から支払われ、各種統計データによれば、1戸あたり80万~100万円、タワーマンションともなると170万~200万円(500戸のタワマンなら全体で8億5000万円~10億円)もの工事費がかかる。
もちろん、築年数や建物の状態によっても金額は上下するが、莫大な「現金」が動く修繕工事費を狙って、水面下で談合まがいの業者間癒着やバックマージンのやり取りなど、数々の不正が横行している。
総合不動産コンサルティングサービスを行う「さくら事務所」のマンション管理コンサルタント、土屋輝之氏がいう。
「大規模修繕工事をする際、実際の工事を行う施工会社とは別に、設計(工事仕様の作成)や見積もりの精査、施工監理(施工品質のチェック)などを、管理会社や外部の設計コンサルタントに依頼する『設計監理方式』を採用するマンションが多いのですが、いくら第三者が介在するからといって公正で安心な仕組みとは限りません。
はじめから管理会社やコンサル事務所が複数の施工会社とグループ化しており、マンションの管理組合からコンサルタント料を徴収したうえに、特定の施工会社からも多額のバックマージンを二重で受け取る“手はず”になっていることが多いのです」
施工会社の選定は業界新聞などを通じて公募されるケースもあるため、競争原理が働き、談合が頻繁に行われているとはにわかに信じがたいが、公募は単なるポーズで出来レースの場合が多いという。
ある大手コンサルティング事務所に所属する一級建築士が語る。
「施工会社を公募するときは募集要項をつくります。例えば『資本金1億円以上、過去3年間の経常利益が黒字で、50戸以上のマンションの大規模修繕工事の元請けを5件以上受注していること』などの要件がついています。
でも、そんな細かい要件を満たす会社は少なく、はじめからグループに入っていない会社を除外する目的に過ぎません。そもそも、すでに完成している建物の傷んだ箇所を修繕するだけの“模様替え”工事は、資本金1億円以上の会社じゃなくてもできますしね」
マンション住民からみれば、ある程度規模が大きく、実績のある会社に修繕工事を任せたほうが安心だと思いがちだが、そうした意識がかえって談合を許してしまう“罠”になっているのだ。