10月15日現在の被害は、死者73人、行方不明者14人、避難者3万人超──12日に伊豆半島に上陸した台風19号は、東日本の各地に甚大な被害をもたらした。ある専業主婦(40才)は、一夜の出来事に肩を落とした。
「憧れの“ニコタマ”に越してきてまだ2年。坪単価420万円のマンションを買ったのに、駅前の道路が冠水するなんて。駅のブランドが下がればリセールバリューも落ちちゃうし、心配で仕方ありません」
ニコタマとは、東京・世田谷区の多摩川のほとりに位置する「二子玉川」の通称で、セレブが集うエリアとして知られている。富裕層が多く住む大田区田園調布でも被害が多数報告された。多摩川の対岸に位置し、タワーマンションが林立する神奈川県の人気エリアの武蔵小杉(川崎市)でも下水が逆流して浸水の被害が発生。住居のトイレ使用を当面禁止するタワーマンションもあり、共同トイレの使用を強いられている住民もいる。
◆河川の氾濫とゼロメートル地帯
国土交通省によれば、15日午前5時現在で、川の堤防が壊れる「決壊」が発生したのは47河川の66か所。埼玉県の都幾川では2か所の堤防が決壊し、都幾川と合流して下流を流れる越辺川でも2か所が決壊。多くの住宅や特別養護老人ホームなどが水につかる被害が出ている。また、水が堤防を越える「越水」はのべ181の河川で確認され、東京・八王子市では南浅川が氾濫して高尾駅周辺が冠水した。
そのほか、都内を流れる荒川や綾瀬川などでは、氾濫発生直前の危険レベルを示す「氾濫危険情報」が出ている。東京都職員として江戸川区土木部長などを歴任し、水害対策に詳しい土屋信行さんが解説する。
「工業用水として地下水をくみ上げたことで地盤沈下し、土地の高さが海面以下になった場所は『ゼロメートル地帯』と呼ばれています。東京でいえば江戸川区、墨田区、江東区、足立区、葛飾区の5区に広がっている。荒川や綾瀬川は、このゼロメートル地帯付近を流れており、氾濫が発生すれば、未曽有の事態に陥っていたことは想像に難くないでしょう」
荒川下流に位置する江戸川区の一部では、20万世帯以上に避難勧告が出された。幸いなことに堤防の決壊や氾濫はなく、最悪の事態は免れた。