日本では1950年に施行された狂犬病予防法により、野犬などを捕獲・収容することが義務づけられ、飼い主の引き取りがない犬たちは殺処分となる。神奈川県動物愛護センターも昭和のピーク時には年間2万匹以上の犬・猫を殺処分していた。その一方で、獣医師職員たちが収容犬の譲渡に奮闘した歴史がある。
◆獣医師が動物を殺処分にするというジレンマ
「1972年にオープンした時は、『神奈川県犬管理センター』という名称で、野犬や飼えなくなった犬たちを収容して処分する施設でした。
今もまだこの新施設の隣に、収容室やガス室が残る旧施設が建っています。捕獲され、あるいは持ち込まれてから5日経って引き取り手のない犬・猫を毎日、順番に処分していたんですね。煙突から煙が上がらない日はありませんでした」
そう語るのは神奈川県動物愛護センターの愛護・指導課長の上條光喜さん。上條さんはもちろん、保健所をはじめ、このような動物施設の職員は資格を有する獣医師だ。
「『あなたたちは、動物の命を助けることも奪うこともできる。それを肝に銘じなさい』と、大学で言われたことを覚えています」(上條さん・以下同)
動物の命を助けるために勉強をし、国家資格まで取ったのに、毎日元気な犬・猫をガス室に送る…というジレンマに悩む同窓生も多かった。
「当時は、野犬を捕まえるだけでなく、飼えなくなった犬を引き取る回収ポイントが、神奈川県下に多い時で300か所以上あったんですよ。収集用のトラックで集めて回るんですね。1979年からは猫も収容するようになり、出産時期には親からはぐれた乳飲みの子猫もいました」
まさに、昨日の“愛犬”が躊躇なく今日の“粗大ゴミ”となった時代。しかしこれは過去の話ではない。今でも飼えなくなると人里離れた森林に放置する無責任な飼い主は後を絶たないし、チワワなどの小型犬は猪などの餌食になることもある。公道を首輪もリードもつけず、迷走していた大型犬もいる。
「飼い主に捨てられた犬・猫が、再び人間を信頼するようになるには、時間を必要とします。すぐに譲渡できるわけではありませんし、成犬の縁組みは簡単ではありません」
◆狂犬病予防策の徹底が殺処分ゼロを可能に