世界有数の長寿国といわれる日本だが、乳がんや大腸がんなどは、欧米諸国では死亡率が下がっている一方、日本では上昇。現在、先進国でがん患者が増加しているのは日本だけだといわれている。もちろん、長生きするほどがん罹患率が上昇することも大きな要因ではあるが、医療関係者の間で問題視されているのが日本人の「検診率の低さ」だ。がん検診を受ける人が少ないがゆえに、がんの死亡率が高いというのだ。
◆20分間眠っている間に大腸がんの9割を予防
女性のがんで、罹患率の高い乳がんを上回り、死亡率のトップになるのが大腸がんだ。とよしま内視鏡クリニック院長の豊島治さんは嘆く。
「米国や英国で大腸がん患者や死亡率が減少している理由は、内視鏡検査が公共の検診に含まれているからです。日本では便潜血検査しかありません。今や大腸がんは、内視鏡検査を受ける人が少ない日本人に多い病気になってしまいました」
大腸がんは、腫瘍性ポリープを放置したことで転じる病気だが、内視鏡による検診を受ければ、その場でポリープの切除が可能だ。一方、便潜血検査では、がんになってからでなければわからないため、がんを予防するのは難しい。
しかし、検診のメリットの大きさがわかっても、肛門から内視鏡を挿入するその検査方法に、「痛そう」「恥ずかしい」と逃げ腰になる人は多いだろう。
「当院では、麻酔薬を用いた鎮静下検査を行っています。検査は20~30分程度で、ぐっすり眠ってしまう人もいます。大腸がん予備軍ともいえる良性のポリープ(腫瘍)がどれくらいの女性に見つかるかというと、40代で37%、50代で45%、60代で56%にも上ります。内視鏡検査時に切除しておけば、大腸がんは8~9割予防が可能です」(豊島さん)
検査準備のための下剤をのむことに苦労したり、吐き気や頭痛などの副作用を起こす人も少なからずいるが、豊島さんのクリニックでは女性の受診者も多いという。眠っている間に終われば、恥ずかしいと感じることもないだろう。
◆カプセルをのむだけで体の中が撮影できる
それでも内視鏡検査に抵抗のある人は、超小型カメラを内蔵したカプセル型の内視鏡をのみ込むだけの検査もある。水分と一緒にカプセルをのみ、消化管を通過しながら内部を撮影していく検査で、カプセルの大きさは直径約1cm、長さ約3cm程度。検査の前後に下剤を服用し、4時間ほどで排出される。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんはこう話す。
「最新の研究では、通常の内視鏡検査と変わらない結果が出ていて、信頼性は高い。しかし、異常があった場合は結局、内視鏡検査をやる必要があります」