【著者に訊け】又吉直樹さん/『人間』/毎日新聞出版/1400円+税
【本の内容】
〈ところで、仲野太一って覚えてるよね?(中略)もう知っているかもしれないけど、その仲野がとんでもないことになっています(笑)〉。絵と文章の仕事をする38歳の永山のもとに、古い友人から突然メールが届く。仲野は美術の専門学校時代、共同生活を送った仲間の1人で、永山に〈「お前は絶対になにも成し遂げられない」〉と予言した男だった。酒に議論に明け暮れた日々、「ハウス」で何が起きたのか。
大きな構えのタイトルだ。人間という言葉が好きなのだという。
「Tシャツのデザインを頼まれて、普通の風景に『人間』という言葉を置いたこともあります。興味を持つきっかけは太宰治の『人間失格』なんですけど、『人間を失格するってどういう状態なんやろ』って思いながら読み、読み終わると、主人公の大庭葉蔵というか、太宰治がとらえる『人間』というのは、失格した人間をも含める、すごく大きい器なんじゃないかと考えたりもしましたね」
芥川賞を受賞した『火花』は芸人、第2作の『劇場』は演劇の世界で何者かになろうと苦闘する青年の姿を描いた。初の長篇で、初の新聞連載である『人間』の主人公永山は38歳。漫画家に憧れ、今は絵と文章を仕事にしている。『火花』や『劇場』の彼らにどこか似た面差しの、何かを目指した若者の「その後」が描かれる。
「物語って劇的な瞬間をとらえることが多いけど、人生はその後も続きますよね、というところから小説を書き始めました」
かつて永山は、芸術を志す若者たちと一軒家で共同生活を送っていた。同じ場所にいた「ナカノタイチ」という人物の消息を知ったことで、苦しかった日々の記憶がよみがえってくる。今は人気漫才師「影島道生」となった男とも再会することになる。