認知症の84才の母親を介護するひとりっ子のN記者(55才・女性)。年老いてからの孤食を心配していたが、ひとりでの食事を快適に過ごすために社交術を編み出していた! 印象深い出来事とは?
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「ハムと卵のサンドイッチね。あとコーヒー。暑いからアイスコーヒーをください」
母の通院に付き添った帰り、よく行くセルフサービスのカフェに寄った時のこと。母を先に座らせて、注文の列に並んだ私の前にいた老婦人が、慣れた様子で注文した。
市街地のせいか昼下がりのセルフカフェは高齢者でいっぱい。壁際に並ぶ席には、新聞を広げたりボーっとしたり、渦巻のクリームがのったスイーツをうれしそうに食べたりするおじいさん、おばあさんがひとりずつ。
高齢者の独居率が増加の一途といわれる状況を、リアルに物語る光景だ。私の前の老婦人もひとりだ。母と同年代に見えるが、遅い昼食なのか、栄養面もよく考えているのか、余計なお世話だがなかなかよい注文内容。少し背中は丸いが、しっかりした足取りで席に向かっていった。
飲み物を買って母の姿を探すと、なんと母の隣の席には先の老婦人。サンドイッチを食べ始めたところだった。そしてそれを無遠慮に見る母。哀れみなのか、羨望なのか。
視線に気づいた老婦人、普通なら怪訝に思うところだが、思いがけず母に笑顔を返した。
「あら、あなたもおひとりなの?」「ええ、そうよ」と、“無言のやりとり”が、2人の間に交わされた気がした。
「ひとりなので、よくここで食べるの。気楽でしょ」と老婦人から声がかかると、母は「私もそうよ! 高齢者住宅でね」と、うれしそうに返した。
若干、かみ合っていない気もしたが、話はどんどん盛り上がっていった。意気投合したキーワードはたぶん“ひとり”。そう察した私は、なんとなく間に入りそびれ、2人を遠くから見守った。
「あの人、えらいわね。ひとりでこういう店に来て、ちゃーんと食べていて」
結局、私が間に入って2人の会話は途絶え、老婦人が去った後に、母がつぶやいた。