ドライブレコーダーの映像だと言われて見せられたら、ほとんどの人が、そこに写っているものは真実だと思うだろう。ところが、たとえ映像であっても恣意的に切り取ることは難しくない。意図的に切り取られたドラレコ動画をアップロードされ、業務への支障が発生したケースについて、ライターの森鷹久氏がレポートする。
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もはやドライバーにとって必須となった「ドライブレコーダー」。SNS上には、ほとんど毎日のようにあおり運転や危険運転の”証拠”とされる動画がアップされており、そのうちの少なくない事案が事件として立件されたり、テレビ報道されたり…。「ドラレコ」のおかげで、危険運転や事故が減った、との資料は今の所見当たりはしないものの、悪質ドライバーを抑制するには一定の効果があることは疑いようもない。
埼玉県内で運送業を営むYさん(五十代)も、会社所有のトラック10数台にいち早く「ドラレコ」の導入をいち早く決めた一人。事故の際の証拠にもなるし、保険金の支払いを受ける際にも重要な資料となる。当時、一台5万円以上したが、社員を守るためにも欠かせないツールだと思い、身銭を切った。安全を買った、そんな気持ちでいたのだ。ところが……。
「昨年の夏頃でしょうか、電話を取ると”人殺し”と叫ばれて一方的に切られました。無言電話なども相次ぎ、その日だけで20本近くのいたずらが…。おかしいと思っていたところに、新聞社やテレビ局からの問い合わせがあって、やっと何が起きているのかわかったんです」(Yさん)
問い合わせてきた新聞記者によれば、Yさんの会社のトラックが危険走行をする一部始終を収めたと称する動画が、ネットに上がり話題になっているという事だった。ネットに疎いYさんだったが、若い事務員に言うと間もなく件の動画を見つけてきた。
「うちの会社のロゴをつけたトラックが、割り込んできてハザードをつけ、高速道路の路肩に停まるまでの一部始終でした。トラックから降りてきて、うちの社員らしき人物が、撮影者であろうドライバーに何か言っているところも映っていましたが音声はない。事故か事件か、トラブルを報告する日報もなかった為に驚きました。うちの社員が何かやったのかと…」(Yさん)
動画には会社のロゴだけではなく、ナンバープレートや撮影日、時間も載っていた。容易に当該運転手は割り出せたが、勤続20年で大きな事故を起こしたこともない、最も信頼を寄せる50代の運転手だったからYさんは驚くしかなかった。
「創業メンバーで信頼していただけに、まさかという思い。しかし、呼び出して事実確認を行ったところ、ネットで言われていることとは真反対のことを言い出したんです」(Yさん)
ドライバーの説明によれば、最初に煽ってきたのは、炎上している動画の撮影者と思われるドライバー。トラックの前に出てきて蛇行運転をしたり、急ブレーキをかけるなど危険な運転を繰り返したという。怒った運転手は、その車を抜き返し、注意する為に路肩に停車。安全を確認した上で降車し、文句を言った、というのである。
「ドライブレコーダーにもその一部始終が映っており、運転手の言い分は本当だったとわかりました。ネットに動画をあげている人物は”怖かった”とか”何もしていないのに一方的に煽られた”とネットに書き込んでいましたが、実際には全然違ったんです」(Yさん)