東京五輪の「マラソン札幌開催案」が急浮上して話題となっているが、陸上ファンの間で「会場変更で被る損失はマラソンよりも大きい」と悲鳴にも似た声があがっているのが、「競歩」だ。
IOCが暑さ対策のためとして発表した東京五輪の一部札幌開催の提案は「マラソン」と「競歩」についてのものだったが、メディアの注目はマラソンに集中してきた。
マラソンは確かに五輪の花形競技だ。長く低迷が続いていた男子マラソンも、昨年2月の東京マラソンで設楽悠太(ホンダ)が2時間6分11秒を出して16年ぶりに日本記録を更新すると、同10月にはシカゴマラソンで大迫傑(ナイキ)が2時間5分50秒でこれを塗り替えるなど、1992年バルセロナ五輪で銀メダルを獲得した森下広一(現・トヨタ自動車九州陸上競技部監督)以来のメダル獲得に向け、期待は高まっていた。
ただ、マラソン競技では世界の背中がまだ遠いのは事実だ。10月12日にはケニアのキプチョゲが非公認レースながら1時間59分40秒という“人類初の2時間切り”を叩き出した。MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)で本番とほぼ同じコースを走るなどした“地の利”がある東京開催であったとしても、日本選手が上位を狙えるかは不透明だ。
これに対し、競歩の場合は状況が異なる。なにしろ日本にもまして高温多湿といわれるドーハでの世界陸上(9月27日~10月6日)で、日本競歩勢は大活躍を見せたのだ。男子50kmで鈴木雄介(富士通)が日本人初となる金メダルを獲得したのに続き、男子20kmで山西利和(愛知製鋼)も優勝を果たした。その勝因のひとつとして挙げられたのが、周到な暑さ対策だった。世界陸上に向けて行われた今夏の北海道千歳市での代表選手たちの合宿では、一人ひとりの汗の成分や深部体温などのデータまで収集し、競技中の給水対策などに生かした。
そもそも札幌移転が急浮上した背景には、このドーハ世界陸上で女子マラソンの出場選手の4割が途中棄権するなど、過酷な条件下でのロード競技の問題が露呈したことがあると見られている。ダブル金となった男子競歩も、暑さを避けて深夜11時半にスタートだったにもかかわらず、いずれも気温30度、湿度70%を超えていた。
一方で、日本競歩勢は酷暑に強かったともいえる。マイナーと見られがちな種目だが、2015年北京の世界陸上で谷井孝行が手にした銅メダルを皮切りに、2016年リオ五輪で荒井広宙(銅)、17年ロンドン世陸で荒井と小林快(銀・銅)とメダル獲得を重ねた末の今回の金メダルで、今や日本のお家芸ともいえよう。