さらに目を惹くのが尾花のシェフとしての手さばき。そんじょそこらの役者ではできない凄みがある。何が凄いかといえば、「真似ごと」を超えている点でしょう。「今回はシェフ役なので、雰囲気を真似てみました」といった水準を大きく超えている。
手つき、目の動き、姿勢、指の滑らかな操作。考えてみると、これは「日常的に練り上げられた動作」に近い。
つまり毎日のように切る、炒める、混ぜる、といった調理を繰り返していないと、調理人の「型」は体に入らないし、自然には見えないはず。職業人は職業それぞれの「型」を身につけているわけですが、この「調理人の型」に迫ろうというキムタクには、やはり脱帽せざるをえない。この見事な包丁さばきは、いったいどこで……?
そうでしょう。『SMAP×SMAP』のビストロSMAPコーナーで、約20年間も料理を作ってきたのです。スマスマでのあの貴重な経験を、今キムタクはいわば独り占めし、おおいに活用しているのです。いや、独り占めという言い方が適当でなければ、「過去の資産を有効活用している」と言えばいいのか、もうアッパレと言うしかありません。
最後に敢えて、一つ残念な点を挙げるとすれば、ライバルの描き方が図式的に過ぎる点です。レストラン「gaku」の丹後シェフ・尾上菊之助とオーナー・手塚とおるの悪役ぶりが、あまりに単純な造形になっています。せっかくキムタクチームは細かな演出・演技、食材からレシピまで徹底的に作り込んでいるのに。ライバルを幼稚化し過ぎてしまったら、元も子もない。
もちろんそのあたりは役者には罪がなくて、演出上の問題でしょう。今後、単純な対決話やサクセスストーリーに陥ることなく、大人が見応えを感じる成熟ドラマに仕上げていくことができるのかどうか。期待し注目したいと思います。