「人間の3世代モデル」という興味深い考察がある。
京都大学こころの未来研究センター教授の広井良典さんが提言するもので、幼老複合施設などでよく見られる高齢者と幼児との好相性ぶりも、より深く理解できるのだ。
生物の一生は“成長期・生殖期・後生殖期”の3期に分けられる。成長期とはすなわち“子ども”、生殖期は“大人”、後生殖期は“老人”だ。
ほとんどの生物は生殖期が終わるとまもなくその一生を終えるが、人間だけは後生殖期と成長期、つまり老人と子どもの時期が長いという。
「生殖期の大人の役割は、いうまでもなく次世代を産み育てることと、働き養うこと。それに対し成長期の子どもと後生殖期の高齢者は、大人のような生産活動から解放されている“自由”な時期といえます。子どもはここで、自分を取り巻くあらゆるものに好奇心を抱き、遊びの対象にします。遊びながら学び、自分なりの創意工夫を楽しむのです」(広井さん・以下同)
老人もまた生産活動を卒業し、自由を謳歌できる立場だ。
「子どもの“学”に対して老人は“教”。老人の時期が長いのは、もともと人間社会の中で、次世代にさまざまな生きる術を教える役割を老人が担っていたからでしょう。それは必ずしも実用的な知識や技能だけではなく、伝統や経験、つまり人が長い時間をかけて蓄積してきた知恵や想像力を含むことが重要。これは、大人のような生産性や効率重視の視点ではなかなか難しいことです。子どもが育む創造性は、何もないところから生まれるのではなく、この伝統や経験の積み重ねが土台になっているのです」
人間の主要な時期と思われがちな大人の期間を挟んで、自由な子どもと老人の時期が長く広がることが、ほかの生き物にはない、人間独自の創造性や文化の源だという。
それぞれに役割を持った子ども─大人─老人という3世代構造が人間の特徴だというが、今は、大人が労働のかたわらで子どもを教育し、老人を介護し、多くを負担しているというのが正直な実感だ。