一方、『同期のサクラ』はそれとは対照的に、セリフも人物設定も激しい。脳挫傷で意識が戻らないサクラ(高畑充希)が病院のベッドに横たわる姿から毎回始まり、1話で1年、10年間を振り返るという仕掛け。遊川和彦脚本によるオリジナル作だけに構成的です。
10年間というスパンを描くけれど、サクラだけほぼ変わらない。他の人たちはどんどん変わっていく。つまり「サクラ」を定点とした人間観測ドラマと言えるのかもしれません。
サクラは“私には夢があります”が決めセリフ。ふるさとの離島と本土を結ぶ橋を架ける、という夢のために大手ゼネコンに入社。しかし、企業に入った割には空気を読まず。過激なコトバをバシバシ言ってくれる。その弾丸トークに視聴者は胸すっきりという、いわば常識という枠をぶち破っていくトリックスター役なのでしょう。
直球で本音を出しすぎて失敗してしまったり、反対にうまくコトバで伝えることができないという、コミュニケーションが苦手な人がたくさんいる時代です。そのあたりで視聴者の共感を呼ぶ設定が、実に秀逸。そのためか第4話の視聴率は、初の二桁11.5%に伸びてきました。
しかし。毎回一つだけ浮かぶ素朴な疑問。なぜそこまで違和感があり嫌な思いをしながらも、みんな会社を辞めないのか。辞めてはいけないのか。結局、組織に守られながら正義を吐き、組織に順応していく過程を見せられているような気がしないでもない。
まあそんな固いこと言わず、ドラマが視聴者のストレスのガス抜きになればいい、ということかもしれません。いや、遊川氏の脚本ですからまだ序の口、これから破壊的展開が用意されている? 今後も目が離せません。
と、2つの作品を見ていて、つい思い出されてしまうドラマがあります。前クールの『凪のお暇』。こちらもやはり会社や組織の中で人間関係に悩み、自分の居場所を探しとうとう外へ羽ばたいていく、という一人の女性の葛藤物語でした。
凪やまわりの人々が見せてくれた、繊細で柔らかくて微妙な心の揺れと迷い、そして壁を乗り越えていく勇気を、また新しい形でドラマの中で味わってみたい。そのあたり今期のドラマにまだ物足りなさを感じているのは私だけでしょうか? 今後におおいに期待しましょう。