艶やかな紅葉、癒しの温泉、美味な食べ物など、“秋”は旅に出たい衝動が高まる季節。そこで、旅にまつわるエッセイを集めた『旅ドロップ』(小学館刊)の著者であり、自身も大の旅好きという小説家・江國香織さんに、この季節におすすめの旅先について伺った。また、作家ならではの視点で語る、行く先々で出逢った“旅と本”にまつわる愛すべきエピソードも。
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◆黄金色の紅葉と澄んだクラムチャウダー 秋の旅はアメリカ東部へ──
私は、子供の頃から秋と冬が特に好き。お天気も曇りの日が大好きで、“もの”があるがままに見える気がして、秋もそれと似た空気を感じます。夏とは違って、秋は世界がクリアに見えるようになる。
この季節は、アメリカ東部の樹々の黄葉に想いを馳せます。日本よりも樹が大きくて、赤より黄色が目立つのですが、乾いた空気の中で、あの黄色の葉っぱを見ながら歩くのが、気持ちよくて大好きです。アップルパイやパンプキンパイなど、秋は食べ物もおいしくなる季節。この時期のハロウィンや感謝祭は、アメリカの家族のイベントなので幸せな気持ちにもなりますね。
さらにこの季節に欠かせないのが、私の大好きなクラムチャウダー。ボストンは定番のミルク系ですが、ニューヨークではトマトベースだったり。この間初めて知ったのですが、透明なコンソメベースもあるんですよ。これも秋から冬にかけてのお楽しみ。
『ジョゼフ・ミッチェル』というアメリカの作家の作品には、ニューヨークやボストンなど、アメリカ東部の市井の人々の話が多数登場し、読むだけで旅した気分を味わえます。さらに、読んでから訪れたらまたぐっと感じ方も変わるはず。この本の中にもクラムチャウダーの話があり、クラムチャウダーはホンビノス貝という貝で作るらしいのですが、読むといつも恋しくなります。そんな風に、本が旅へと誘ってくれる。そうやって行き先を決めるのも楽しいですね。
日本なら、神奈川県・箱根に『箱根本箱』という約1万2000冊もの本が並ぶブックホテルがあります。そこには、石田衣良さんや綿矢りささんなど、様々な作家がおすすめする本棚があって、私の本棚もあります。滞在中、自由に読むことができて、気に入ったら買うこともできる。魅力的な本を厳選しているので、ぜひ足を運んだ際は覗いてみてください。全室に露天風呂もあって、読書の秋、紅葉の秋におすすめの宿ですよ。