音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、テレビで有名な芸能人となった立川志らくの渾身の一席「らくだ」についてお届けする。
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この秋から朝の情報番組『グッとラック!』(TBS系)の司会を務めている立川志らく。今や完全に「テレビで有名な芸能人」だが、落語の仕事のペースは落とさず、高座の内容にも影響はない。10月1日、柳家喬太郎との二人会で久々に志らくの『らくだ』を聴き、その迫力に圧倒された。
喬太郎が軽めの二席(新作『路地裏の伝説』と古典『館林』)、志らくが長講一席という構成で、高座に上がった志らくは開口一番「仕事を詰め込み過ぎて疲れてる」と言い、数日間のスケジュールを道中付けのように言い立てると場内から拍手が巻き起こる。この日は『グッとラック!』『ひるおび!』の後『プレバト!!』を2本収録してから会場(赤坂区民センター)に来たという。
兄貴分が自ら「丁の目の半次」と名乗るのは談志が始めた演出だが、この半次が白目を剥いて「あーあー」と叫びながら頭を大きくグルグル回すという奇妙な行動で屑屋を威嚇するのが志らく版の独特なところ。当代桂文治は片眉を上げた形相と吠えるような大声が異様に怖い兄貴分が白目を剥いて舌をチロチロ出して屑屋を脅す演り方をしていて、これがなんとも可笑しいが、志らくはさらにクレイジー。談志の言う「落語はイリュージョン」を追究する中で志らくが辿り着いた「ワケのわからない奴」としての半次の表現だ。
酔いが回っていく中で屑屋が「雨の中で寂しそうだったらくだ」のエピソードを語るのは晩年の談志が考案した演出で、志らくはそれを踏襲しながらさらに一歩進めて「兄貴分と喧嘩して会えなくなって寂しい」とらくだに言わせている。この人間味のある男が次の瞬間、一転して凶暴性を剥き出しにする展開は志らく独自のもの。らくだにボコボコにされる屑屋を近所の子供たちが笑って見ている中で、屑屋の子供たちも仲間外れにされないために泣き笑いしているというのが切ない。