【著者に訊け】田中里尚氏/『リクルートスーツの社会史』/3600円+税/青土社
〈ある人は「就活」学生の制服と言い、ある人は日本的無個性の象徴と言い、ある人は同調圧力の強い日本の社会を表象するものと言う〉──。そう、『リクルートスーツの社会史』である。
著者・田中里尚氏は現在文化学園大学准教授を務め、戦後の服飾文化や女性誌の歴史、それを取り巻く人々の意識の変遷を研究。本書でも〈そこに堂々とありながらも、誰にも関心をもたれず、気にも留められない〉リクルートスーツはエドガー・アラン・ポー作『盗まれた手紙』の手紙のようなもので、〈このような存在を明瞭にするには、存在よりもその周辺にある言論や行動に着目した方が、より事態は可視的になる〉とする。
実はリクルートスーツという商品自体、従来の紳士服カテゴリーには存在せず、その現象が登場したのも就職協定(1972年~)確立から5年が経った1977年頃だとか。以来毎年季節になると紺や黒のスーツ姿の学生が増殖する謎について、私たちは確かに、無頓着すぎた?
「私は元々小説家志望でしたが文芸専修ではなく史学科に進み、そこで女性史から女性誌や服飾史に興味を持ちました。なのでリクルートスーツの専門家というわけではないんです。
例えば就職指南書によくある〈常識の範囲内〉とか〈清潔感〉という定義自体の曖昧さに興味を持ち、着装規範を巡って、スーツの王道は紺だとか三つ釦(ボタン)がどうとか、それらしい一線をみんなで探ってきたのがリクルートスーツの歴史とも言えます。そもそもオシャレって何? とか、常識って何? とか、人間の行動規範や言葉の問題に、私は興味があるんです」