「相変わらずひとりが好きで悪いか!!」。そんな言葉とともに13年ぶりに帰ってきた桑野信介。マイ指揮棒を片手にクラシック音楽を楽しむ一方、母親との関係に悩む彼の姿はまさに「生涯独身社会」の象徴そのもの。不器用で偏屈な桑野の姿から、今の社会が見えてくる──。
57才の独身男性はこう語る。
「普段テレビって見ないけど、これだけは録画までしてる。だけど、現実はもっと孤独で不安。だって彼の周りには女性の影がちらほらあるでしょ。しかもタイプの違う美女たちが。アイツは結婚できないんじゃなくて、自分の意思でしないだけ! なんて言いながら、今週末は真似して鎌倉ひとり旅の計画を立てちゃうくらいには、影響を受けているんだけど(笑い)」
“アイツ”と呼ばれ、やっかまれているのは、13年ぶりの続編が放映中のドラマ『まだ結婚できない男』(フジテレビ系・火曜21時~)の主人公・桑野信介、53才。同ドラマは普段テレビを見ない仕事盛りの男性をも虜にしている。13年の時を経て、相変わらず偏屈な独身男が、どうしてこんなに、気になるの──?
◆「まだ結婚できない」スタッフ
「桑野のようなシングル男子、私の周りにもたくさんいますよ。オーディオルームやホームシアターを作っている人もいて、変わり者だけど、本人たちは楽しそう。非婚化・晩婚化が進んで、“おれ、こんな感じかも”とか“職場のあの人みたい”と心当たりのある人が増え続けてきたのではないでしょうか」
こう話すのは、ドラマ評論家のペリー荻野さんだ。桑野を取り巻く設定のリアルさも絶賛する。
「13年後を描く今回、変わらない桑野と変わってゆく周囲の様子が絶妙に表現されています。50を過ぎた男がひとりでいることに、高齢の母・育代(草笛光子・86才)は諦めの境地にいながら気を揉むとか、知らない人からブログに悪口を書かれたりとか、みんなが桑野のことを変人と認識しているのに本人は相変わらずそう思ってないとか。
加えて、犬と目が合っただけ、買い物をしているだけなのに面白くなっちゃう阿部寛(55才)演じる桑野の雰囲気が抜群。社会問題にもなっている非婚化や晩婚化を扱った作品ですが、彼の演技で良質なコメディー作品になっているのだと思います」(ペリーさん)
今の社会を軽妙に描き、視聴者の心をわしづかみにできる理由は、ドラマの現場にあるようだ。同ドラマプロデューサーの米田孝さんが言う。
「スタッフも前作からかかわっている人が多く、“お互い年食ったね”なんて言い合いながら、同窓会のような雰囲気です(笑い)。桑野がクラシック音楽を聴きながら“マイ指揮棒”を振るくだりは“まだ結婚してない”スタッフの日常からネタ出しをしたもの。ジムにせっせと通ったり、仕事終わりにコンビニに寄ることをルーティンにしているエピソードも同様です」