今年10月に、がん専門誌『インターナショナル・ジャーナル・オブ・キャンサー』オンライン版「がんの家族歴とその後のがんの罹患リスク」という論文が掲載された。論文は国立がん研究センターが中心となって行なっている多目的コホート研究「JPHC」の一環として発表された。
この研究は、岩手県二戸、長野県佐久、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県中部など全国10地域にある保健所管内に居住する40~69歳の男女10万3707人を、1990~1993年から2012年まで平均17.4年間にわたって追跡した大規模な疫学データを元にしている。
その結果、「がん家系」の調査対象者の罹患リスクが「高い」といえるデータが得られたのだ。たとえば、胃がんは、がん家族歴があると罹患リスクが1.36倍上昇など、7つのがんで「リスクが上昇する」という結果が出た。研究では、すべての部位のがんを含む『全がん』の数値も出したが、家族歴がある人はない人に比べて、発症リスクは1.11倍上昇した。一方、今回の研究で、がん家族歴との関連に「統計的に有意な結果が出なかった」とされるのが大腸がん、前立腺がん、乳がんだ。
研究は日進月歩で進んでいるものの、がんが遺伝によるものか、生活習慣によるものかを特定するのは容易ではないことがよく分かる。ただし今回の研究から、家族歴がある人はより注意すべきであることは間違いなさそうだ。今回の論文の意義を医療経済ジャーナリストの室井一辰氏はこう評価する。
「海外には家族歴とがんに関する研究が多かったものの、日本人を対象とした研究で大規模かつ追跡期間が長いものはありませんでした。
海外の研究をもとに家族歴とがん発症に関係があるというのは医学界の常識とされていましたが、詳細までは分かっていません。それを多くの日本人を対象とした1つの研究で、生活習慣の影響を取り除いたうえで、様々な部位のがんを詳しく解析しようとした点で、この調査は評価できます」