日本社会の抱える高齢化が、最も進んでいるのがヤクザかもしれない。山口組分裂抗争に関連して世間を騒がせた2つの出来事──対立する神戸山口組組員2人を六代目山口組組員が射殺した事件、その六代目山口組のナンバー2にして“抗争最大のキーマン”とされる高山清司若頭の出所、奇しくもその2人が、68歳と72歳という高齢者であった。
ヤクザに“穏やかな老後”はあり得ないのか。共著『教養としてのヤクザ』(小学館新書)が話題を呼ぶ溝口敦氏と鈴木智彦氏の2人が語り合った。
鈴木:世間では“68歳のヒットマン”というのが衝撃を与えたようですが、ヤクザ社会では高齢ヒットマンの増加はかねて言われていたことです。
溝口:そうですね。その意味では年齢に意外性があったわけではない。
鈴木:抗争で相手の組員を殺して懲役に行くことを“ジギリをかける”と言うんですが、かつては若い頃に組のためにジギリをかけて15年か20年の刑期を勤め上げて40代で出所、それから幹部に取り立てられるのがヤクザの出世コースでした。
ところが今は抗争で人を殺した場合、1人殺害でも無期懲役になってしまう。こうなると暴力団員としては先がないので、若い組員には行かせられません。だからこそ、年を取った組員に白羽の矢が立つわけです。
溝口:ただし、何も無理やりやらされるわけではない。自ら志望して行くんです。食うや食わずの高齢ヤクザにとっては、懲役に行けば刑務所で少なくとも衣食住は保障される。老人ホーム代わりと言ってもいいかもしれません。
鈴木:刑務所は、ヤクザにとっての最後のセーフティネットですからね。