来春のセンバツ甲子園から、ひとりの投手の投球数を1週間で500球以内にするなどの「球数制限」が導入される予定だ。中京大中京(愛知)が優勝した秋の神宮大会ではセンバツ出場が確実視される各校が、導入を見据えた戦いをみせていた。本番までに複数の投手を育成すべく、継投策を取る高校もあれば、積極的に下級生を起用して底上げを図るチームもあった。そうしたなかで、驚異の1年生投手が登場した。新著『投げない怪物 佐々木朗希と高校野球の新時代』が話題のノンフィクションライター・柳川悠二氏がレポートする。
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高校野球の名門・天理(奈良)に、1年生の“怪物”現る――。
大谷翔平(エンゼルス)の登場以来、長身の豪腕投手に“怪物”の呼称が使われるのは食傷気味であるし、チームでエースでもない高校1年生をそう呼んでしまうことにもためらいがある。ただ、それでも192センチの痩身から角度のあるストレートを投じ、強豪相手にも威風堂々とした立ち居振る舞いを見せる様子は、大谷や高校3年時に163キロを投げた佐々木朗希(大船渡)といった先輩モンスターの姿をつい重ねてしまう。
名前は達(たつ)孝太。誕生日は2004年3月27日で、もし生まれるのが数日遅ければ、まだ中学3年生という15歳である。
デビューは鮮烈だった。11月4日の秋季近畿大会決勝で、強打の大阪桐蔭を相手に先発し、初回に一発を浴びたものの、8回途中まで4失点。真上から振り下ろされるMAX141キロの直球を主体に、フォークボール、スライダー、カーブを投じて、天理の5年ぶりの近畿制覇に貢献した。
「初回から飛ばしました。球速は(これまでの自己)最速よりもうちょっと速かったような気がします。相手が相手なんで(笑)、打たれてもいいという覚悟で投げました。緊張はしたんですけど、初回の先頭打者(見逃し三振)で、自分のボールも通用するかなと思いました。ホームランは、相手の力が上だったというだけ。気にしませんでした」
夏の奈良大会からベンチ入りしてきた達にとって、大阪桐蔭戦が公式戦3試合目の登板で、先発は初めてのこと。しかも、球場入りし、メンバー表交換をし、グラウンドに出てキャッチボールをする直前に先発を聞かされた。同校の中村良二監督によると、余計なことを考えず普段のルーティンに励めるよう、あえて先発を告げなかった。