音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、城マニアとしても知られる春風亭昇太ならではの着眼点を生かし『井戸の茶碗』で爆笑を呼んだ一席についてお届けする。
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59歳にして遂に結婚、今や落語芸術協会の会長でもある春風亭昇太。だがモットーの「収まってたまるか、一生ジタバタしてやる」そのままに、相変わらず若々しくパワフルだ。10月5日に本多劇場で観た独演会「オレスタイル」でも、そんな昇太の高座を堪能できた。
1席目は部長に初めて食事に誘われた夫に「リストラする罠よ」と言って妻が与えた数々の助言が完全に裏目に出る『リストラの宴』。妻の立てた作戦を実行すべく必死な夫の姿がバカバカしくも愛おしい。
2席目は『お見立て』。冒頭、杢兵衛大尽に会いたくないと仮病を使おうとする喜瀬川花魁に喜助が「見舞いに来ますよ。どうなると思います? 逃げられないあなたの顔の近くに杢兵衛大尽の顔が……」と言うと「イヤッ! そんなことになったら死んじゃう!」と身震いした喜瀬川はハッとした顔で「そうだ、死んじゃったことにしよう!」と思いつく。この展開が昇太らしくて楽しい。杢兵衛の言う「ひぃふ」が「夫婦」だと思わず夫婦約束してしまったという喜瀬川の告白にも笑った。
そして素晴らしかったのが3席目の『井戸の茶碗』。随所に独自の演出を盛り込みながら屑屋のキャラを生き生きと描く、ダイナミックな演出に引き込まれる逸品だ。