近年、薬物事件が起きて逮捕者が出ると「被害者なき犯罪」と、訳知り顔で語る人たちがいる。本人が危険にさらされるだけで、被害を受ける人はいないから、社会的制裁を伴う逮捕が行われない限り、誰にも迷惑をかけていないというのだ。だが、果たして本当に被害者はいないのだろうか? 依存性が高く、判断力を失わせる違法薬物が身の回りに出現したがゆえに、人生が変えられてしまったと訴える”被害者”たちの声を、ライターの森鷹久氏がレポートする。
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合成麻薬(MDMA)を所持していたとして逮捕された女優・沢尻エリカの報道が加熱している。もっとも、以前から”噂”があったためか、使用の現場とされる渋谷区内のクラブには、テレビや新聞、週刊誌の記者がこっそり潜入し取材をしているという話も聞こえていた。沢尻といえば、その生意気な言動で世間からあらゆる好奇の目を集めたが、その後の薬物疑惑を払拭しつつ、まさに大女優への階段を登りかけていた最中の事件。マスコミの気持ちもある程度は理解できる。
しかし、これら報道が「薬物は絶対にダメだ」という社会への呼びかけに全くなっていない部分には、大きな違和感を抱かざるを得ない。むしろ「合成麻薬とは沢尻にみたいな遊び人とは切っても切れないもの」などといった諦観、そして見下しのイメージ作りが先行し続け、とあるワイドショーではコメンテーターが「薬物使用は被害者なき犯罪」とまで言ってのけた。
それは違う。薬物犯罪には必ず被害者がいるし、殺人や強盗に劣るとも勝らない負の側面がある。むしろ、この認識こそが薬物犯罪を蔓延らせる原因であり、使うものと使わざるものを「分断」している原因ではないか──
「あの男は元々常習者でしたが、再婚後にママも一緒に覚せい剤をやるようになりました。私は当時小学校低学年だから記憶もはっきりしている、というか忘れたくとも忘れられないんです」
辛い記憶を紐解いてくれたのは、筆者が以前「援助交際」について取材した時に応じてくれた北海道在住の増田かな子さん(仮名・当時10代後半)だった。かな子さんは、両親が覚せい剤で逮捕されると、母方の親族のもとに身を寄せた。しかし、親族からは「薬物中毒者の娘」「汚い」と罵られ続け、中学卒業とともに逃げ出すように上京。品川区内のキャバクラ店に年齢を誤魔化し入店、当時は店の寮であるタコ部屋同然の部屋で暮らしていた。