最近の「ごはん好き」は単なる白米好きではなく、おしなべて好きな銘柄を持つようになっている。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏がレポートする。
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この10年ほどで、米の多様性はずいぶんと進んだ。象徴的な数字がある。品種の数だ。本年度、農林水産省に登録されている食用うるち米の「産地品種銘柄」──産地ごとに品種を区分した銘柄の数は824種類。過去最多となった昨年の795種類を更新した。この10年で約5割も銘柄数が増えている。
これは単純に新品種開発が進んで市場が盛り上がっているなどという、賑々しい話ではない。少なくとも国内生産量という視点では、コメマーケットは衰退市場と言っていい。1960年代後半に1445万トンあった主食用米の生産量は、半世紀経った昨年には778万トンとほぼ半減。この10年で見ても需要量は15%落ち込んだ。にも関わらず、銘柄数は増え、前年よりも売上を伸ばす銘柄米も出てきている。競争は激化し、新たな食味を持つ新品種も続々と名乗りをあげている。これまで好調だったブランド銘柄とて安穏とはしていられない。
この数十年、米ブランドとして圧倒的な王者として君臨してきた「コシヒカリ」。その強さの背景には、食味の良さはもちろん、「寒さに強い」という生産者メリットもあった。ブランドは質も含めた安定供給があってこそ確立される。コシヒカリだけではない。寒さに強い「ひとめぼれ」「はえぬき」といった品種は家庭用、業務用を問わずロングセラーとなっている。
一方、1980年代にブレイクした「ササニシキ」は1990年に全国の作付け2位になるまでに生産が拡大されたものの、1993年の大冷害で収量が激減。以降、「寒さに弱い」との評判が広まり、農家から敬遠されてしまった。さらに「わかりやすい甘みと旨み」に消費者が引っ張られ、さっぱりしながらもコクのある通好みの食味は、より甘くて粘りの強いコシヒカリの「わかりやすい味」に押されて、そのポジションを失ってしまっていた。
ところが、近年の温暖化が国内における米のブランド勢力図を一変させようとしている。昨年2018年に発表された「平成29年度産米の食味ランキング(日本穀物検定協会)」ではブランド米の王様、魚沼産コシヒカリが指定席とも言える「特A」から「A」に転落した。さらに今年発表されたランキングでは、宮城県のササニシキが23年ぶりの「特A」を獲得し、業界で大きな話題となった。
2018年のコシヒカリの「特A」落ちは、その年の8月中旬以降の低温と日照不足による登熟不足と食味の変化が理由とされる。実際、米の適作地は温暖化に伴って北上していて、各地で登熟期の高温に耐えられる新品種の開発が急務となっている。
今年発表された「平成30年産米の食味ランキング(日本穀物検定協会)」では魚沼コシヒカリの「特A」復帰が話題になったが、全体として目立ったのは寒冷地である岩手や秋田といった東北勢の躍進だった。岩手は県南の「ひとめぼれ」と県中の「銀河のしずく」。秋田も県南の「ゆめおぼこ」と中央の「ひとめぼれ」というそれぞれ2銘柄が「A」から「特A」へと評価を上げた。山形の新規銘柄「雪若丸」も村山と最上という2か所の産地で「特A」を獲得した。