【著者に訊け】原田マハ氏/『風神雷神Juppiter,Aeolus』(上・下)/各1800円+税/PHP研究所
生没年不詳。経歴も人物像も、全てが謎に包まれた俵屋宗達に関し、京都国立博物館研究員〈望月彩〉が、こう呟く場面がある。〈確たる証拠は何もない〉〈だからこそ、おもしろいのだ〉
「これはそのまま私の台詞です。謎が多いということはフィクションをより自由に構築できるわけですから」
そんな謎多き琳派の祖の、特に少年時代に材を取った原田マハ著『風神雷神Juppiter,Aeolus』は、彩が自ら企画した〈いまひとたびの琳派〉展初日にマカオ博物館の〈レイモンド・ウォン〉なる人物の訪問を受け、画期的新史料の提供を匂わされた、2000年秋の出来事から始まる。
後日マカオを訪れた彩は、〈ユピテル、アイオロス〉、つまりラテン語でいう風神雷神が描かれ、〈カラヴァッジョの絵の特徴を備え〉た西洋画をウォンから託され、さらに同封の日記には天正遣欧使節団の一員、原マルティノの署名が。そこには若き日の彼と謎の天才絵師宗達の驚くべき友情の物語が綴られていたのである。
「今作は『京都を舞台にしたアート小説を』という京都新聞の依頼が始まりでした。京都に因んだ日本美術の中でも『風神雷神図屏風』は誰でも知っているアイコンですし、作者の生涯が謎だらけなだけに、思い切った時代小説が書けそうだと思って。
いちおう宗達に関しても、実家が京の扇屋“俵屋”で、彼の扇絵はよく売れたなど、多少の逸話は残っていて、だいたい1570年前後の生まれだとも言われています。そこで当時の時代背景を調べてみると、1582年に天正遣欧使節団が派遣されていたり、思った以上に横の広がりもある時代だったんです」