深い霧に包まれた参道の両脇には無数の石塔。周辺には樹齢数百年の杉の巨木がそびえ、視界の先には墓地が広がる。長い年月の経過を刻んだ苔むした墓が多く、その歴史が感じられる。
参道から一本脇道に入ると、人の話し声も鳥の声すらも聞こえなくなり、耳に届くのは杉の枝が風に揺れる音ばかり。木々が生い茂る山林に歩を進めると、整備されたばかりの一角に、2基の墓がひっそりとたたずんでいた。
向かって右は今年7月に亡くなったジャニー喜多川さん(享年87)の墓、そして左に建つ同じ形の墓は──。
和歌山県北部に位置する高野山。周囲を標高1000m級の山々に囲まれた盆地で、1200年以上前に弘法大師(空海)によって開かれ、真言密教の修行の場となっている。さまざまな謎を残す場所で、先日発売された歴史小説『高野山』(小学館)をはじめ、多くの戦国史ミステリーの題材にもなっている。
金剛峯寺を総本山とし、117もの寺院で構成され、「一山境内地」と称し高野山全体がお寺になる。20万墓を超える墓があり、新たにジャニーさんが加わることになる。
高野山とジャニーさんには、浅からぬ縁がある。ジャニーさんの父・諦道さんは真言宗の僧侶で、一時期はアメリカ・ロサンゼルスにある高野山真言宗米国別院の主務を務めていた。ジャニーさん一家と親交があった人物はこう語る。
「ジャニーさんのお父さんは、高野山にある寺院で得度したんです。得度とは僧侶となる出家の儀式のこと。その後、布教のためロサンゼルスに渡り、その地でジャニーさんは生まれました。2才の時にジャニーさんは、ご家族で帰国して大阪で暮らし始めました。当時、私は大阪で彼らとお会いしたことがあり、親切にしてもらいましたよ。ご家族がアメリカに戻り、東京へ行ったのはその後です。そういった縁があり、ジャニーさんのお父さんのお墓も高野山にあるんですよ」
高野山の墓地は広いが、なかでも弘法大師が眠る奥の院と呼ばれるエリアには、織田信長や豊臣秀吉、上杉謙信といった、歴史上の人物の墓が並び、歴史好きが足を運ぶ。企業の墓もあり、容器の形をしたヤクルトの墓石、コーヒーカップをかたどったUCC上島珈琲の墓石もよく知られている。
しかしジャニーさんの墓は周囲の墓よりも広い聖地にあり、シンプルで静謐(せいひつ)さが漂う。日本の芸能界で比類なき活躍をしたジャニーさんならば豪華絢爛な墓石を想像してしまうが…。そこには意図があるようだ。高野山の寺院関係者が明かす。