ライフ

【嵐山光三郎氏書評】三姉妹と「みなしご」のおりなす物語

『ファースト クラッシュ』山田詠美・著

【書評】『ファースト クラッシュ』/山田詠美・著/文藝春秋/1500円+税
【評者】嵐山光三郎(作家)

 三人姉妹の自我と情熱と欠落がどれほどの事件をまきおこすか、というハラハラドキドキのハードボイルド・ロマン。裕福な高見澤家は、父(やがて死亡)が輸入家具を扱う貿易商で、気品のある母、謎の家政婦タカ、三姉妹がおりなす「女の園」である。

 そこへ突然、力(リキ)というひねくれた少年が入ってくる。父の友人の息子で、「お母さんが死んでかわいそうだから引き取った」と説明される。「じつは父の愛人の連れ子」だったからさあ大変。

 父と愛人のあいだに産まれた子ではなく、愛人の連れ子というビミョウな距離感がクラッシュ(こなごなにくだける)を生む。「ファースト クラッシュ」とは「初恋」のことだが、淡く甘酸っぱい「初恋」ではない。「両親が亡くなった不憫な子」は、物腰が低く、野卑だったが、神戸育ちの関西弁を使って、少しずつ娘たちを籠絡していく。「みなしご」が家族の一員になるなんて、「なんてステキなんでしょう」と興奮する。

 第一部は次女の視点からリキという不良少年の魔物的魅力が語られる。次女は本ばかり読む夢想的な少女。第二部は長女の視点からリキの別の人格がわかる。ヴァイオリンを弾く美少女の長女はリキを召使いとして扱い、登校するときの荷物を持たせる。第三部は甘ったれでわがままな三女の視点でリキの、斜に構えた影が示される。

関連キーワード

関連記事

トピックス

現在はアメリカで生活する元皇族の小室眞子さん(時事通信フォト)
《ゆったりすぎコートで話題》小室眞子さんに「マタニティコーデ?」との声 アメリカでの出産事情と“かかるお金”、そして“産後ケア”は…
NEWSポストセブン
逮捕された元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告(過去の公式サイトより)
「同僚に薬物混入」で逮捕・起訴された琉球放送の元女性アナウンサー、公式ブログで綴っていた“ポエム”の内容
週刊ポスト
まさに土俵際(写真/JMPA)
「退職報道」の裏で元・白鵬を悩ませる資金繰り難 タニマチは離れ、日本橋の一等地150坪も塩漬け状態で「固定資産税と金利を払い続けることに」
週刊ポスト
精力的な音楽活動を続けているASKA(時事通信フォト)
ASKAが10年ぶりにNHK「世界的音楽番組」に出演決定 局内では“慎重論”も、制作は「紅白目玉」としてオファー
NEWSポストセブン
2022年、公安部時代の増田美希子氏。(共同)
「警察庁で目を惹く華やかな “えんじ色ワンピ”で執務」増田美希子警視長(47)の知人らが証言する“本当の評判”と“高校時代ハイスペの萌芽”《福井県警本部長に内定》
NEWSポストセブン
ショーンK氏
《信頼関係があったメディアにも全部手のひらを返されて》ショーンKとの一問一答「もっとメディアに出たいと思ったことは一度もない」「僕はサンドバック状態ですから」
NEWSポストセブン
悠仁さまが大学内で撮影された写真や動画が“中国版インスタ”に多数投稿されている事態に(撮影/JMPA)
筑波大学に進学された悠仁さま、構内で撮影された写真や動画が“中国版インスタ”に多数投稿「皇室制度の根幹を揺るがす事態に発展しかねない」の指摘も
女性セブン
奈良公園と観光客が戯れる様子を投稿したショート動画が物議に(TikTokより、現在は削除ずみ)
《シカに目がいかない》奈良公園で女性観光客がしゃがむ姿などをアップ…投稿内容に物議「露出系とは違う」「無断公開では」
NEWSポストセブン
長女が誕生した大谷と真美子さん(アフロ)
《大谷翔平に長女が誕生》真美子さん「出産目前」に1人で訪れた場所 「ゆったり服」で大谷の白ポルシェに乗って
NEWSポストセブン
『続・続・最後から二番目の恋』でW主演を務める中井貴一と小泉今日子
なぜ11年ぶり続編『続・続・最後から二番目の恋』は好発進できたのか 小泉今日子と中井貴一、月9ドラマ30年ぶりW主演の“因縁と信頼” 
NEWSポストセブン
第一子出産に向け準備を進める真美子さん
【ベビー誕生の大谷翔平・真美子さんに大きな試練】出産後のドジャースは遠征だらけ「真美子さんが孤独を感じ、すれ違いになる懸念」指摘する声
女性セブン
同僚に薬物を持ったとして元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告が逮捕された(時事通信フォト/HPより(現在は削除済み)
同僚アナに薬を盛った沖縄の大坪彩織元アナ(24)の“執念深い犯行” 地元メディア関係者が「“ちむひじるぅ(冷たい)”なん じゃないか」と呟いたワケ《傷害罪で起訴》
NEWSポストセブン