映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優・イッセー尾形が、主演映画『漫画誕生』の進行が記憶が観客のものになる構造と、あらためて一人芝居について語った言葉をお届けする。
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公開中の映画『漫画誕生』にイッセー尾形は主演、戦前の漫画家・北沢楽天を演じている。
「台本を読むと、扱っているのは漫画家という特殊な役なのですが、全体を見ると、時代とともに大衆と寄り添ってきたはずなのに戦後スポイルされていく──という構造なんですよね。
その皮肉な感じ、ありていに言うと歴史に翻弄される。そこが面白くて参加しました。
本当にいた方ですから、外見については似せた方がいいと思って、写真を見ながら似せています。そうやって、外見から入るのは好きなんですよ。
こちらは外見さえ作れば、内面というのは見ている人が作りますから。人って想像する生き物なんです。ただ外見を見ているだけの人はいません。ですから、外見を作っておけば、人は何かを想像してくれます」
尾形が扮する老いた北沢が検閲官からの尋問に対して若い日々を回想する形式で、映画は進行していく。
「記憶を振り返るわけですから、その場面は僕が出ているけれども、その次の昔の時代の映像には僕は出ていないわけです。
そうなると、スクリーンに映っている昔の場面は僕が演じる男が語ったその男の記憶であるにもかかわらず、もうその男のものではなくて観客のものになっている。人生の記憶が自分のものではなくなってしまう──そんなことが起きる予感があったのも、面白かったですね」