2011年にアメリカで始まり、日本では2013年に導入されたNIPT(新型出生前診断)は、採血だけで母子のDNAを分析でき、染色体異常(21トリソミー、18トリソミー、13トリソミー)の可能性を調べられる。
原則として35才以上の妊婦が対象となり、調べる疾患も上記の3つの染色体異常に限定した。陰性(正常)であれば99.9%の確率だが、陽性(異常あり)の場合は、確定のために羊水検査の必要がある。現在は妊婦の7%ぐらいが出生前診断を受けており、その数は過去10年で2.4倍程増えているという。
『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』(小学館)、『発達障害に生まれて──自閉症児と母の17年』(中央公論新社)など多くのノンフィクション作品を世に送り出し、10月には『いのちは輝く わが子の障害を受け入れるとき』(中央公論新社)を上梓した小児外科医の松永正訓さんは、そうした状況に苦言を呈す。
「新型出生前診断の主なターゲットはダウン症。21番染色体が3本ある胎児が該当しますが、ダウン症の赤ちゃんが生まれる確率は1000分の1であり、そのほかの先天性疾患は見逃されたままなのです」(松永さん・以下同)
日本産科婦人科学会が新型出生前診断を開始した時は、認定施設で充分な遺伝カウンセリングが実施の条件とされた。しかし、学会ルールにそぐわない医療機関が低料金で参入した。そうしたところでは、結果は郵送やスマホなどでの確認が一般的だ。
「つまり、陽性でもあくまでも確率なので、確定のためには羊水検査が必要なのですが、非認定施設ではその説明もなく、羊水検査を受けずに人工妊娠中絶している人が少なからずいると思います」
学会では、こうした規範の乱れを正すために、あえて規制を緩めた。「ワースト」を避けるために「ワース」を選択したのだ。