映画、テレビ、配信の映像作品で新しいトレンドが登場している。それは、令和になって明らかに増えている「懐古アレンジ」とも言えるものだ。いったいどういうものか? そして、そうした作品が増えている背景とは? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
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12月6日に映画『ルパン三世 THE FIRST』が公開され、早くもネット上の話題を集めています。さらに、来週末の13日には『ぼくらの7日間戦争』、27日には『男はつらいよ お帰り寅さん』も公開。いずれも40代以上の世代には懐かしい名作であり、メディア関係者の間では「立て続けに公開することで相乗効果が期待できる」とみられています。
それにしても驚かされるのは、相当ひさびさの映画化であること。『ルパン三世』は、1978年に第1作『ルパン三世 ルパンvs複製人間』が公開され、1996年の第6作『ルパン三世 DEAD OR ALIVE』から23年が経過。『ぼくらの7日間戦争』は、1988年に第1作『ぼくらの七日間戦争』が公開され、1991年の第2作『ぼくらの七日間戦争2』から28年が経過。『男はつらいよ』は、1969年に第1作が公開され、1997年の第49作『寅次郎ハイビスカスの花』から22年が経過しています。
ひさびさと同等以上に特筆すべきは、三者三様のアレンジ。『ルパン三世』は「日本VFXの第一人者」である山崎貴監督による3DCG化、『ぼくらの7日間戦争』は舞台を30年後の2020年に移した上でアニメ化、『男はつらいよ』は過去映像を4Kデジタル修復しつつ新撮を加えて制作しています。
どれも普通のリメイクや続編ではなく、ひと工夫を加えているのは、制作陣のこだわりに他なりません。言わば、「懐古アレンジ」と言える令和時代の新潮流なのです。
◆インパクトの大きさと2層への訴求
ただ、この懐古アレンジは映画だけでなく、テレビドラマやネット配信サービスでも似たような現象が見られます。
テレビドラマでは、13年ぶりの続編でキャストを大幅に変えた『まだ結婚できない男』(関西テレビ、フジテレビ系)、12年ぶりの続編でスタッフなどに変化が見られる『時効警察はじめました』(テレビ朝日系)、舞台を現代の東京に移した『シャーロック』(フジテレビ系)、寅さんの前日譚となる『少年 寅次郎』(NHK)が放送され、ネット配信サービスでも、『ヤヌスの鏡』(FOD)、『ブスの瞳に恋してる2019』(FOD)を配信。いずれも懐かしい作品にアレンジを加える形で制作されています。
なぜ2019年になって、懐かしい物語がピックアップされ、アレンジを加えた作品が増えているのでしょうか。
真っ先に挙げられる理由は、「新作以上の注目度やインパクトがあるから」「過去作を知る中高年層に加えて、若年層にも訴求できるため、ヒットの可能性がある反面コケにくいから」の2点。あえて10~30年前の作品を再発掘しているところが、その2点の裏付けとなっています。
見方を変えると、「複数のターゲット層がいなければ、大型企画は通りにくい」という作り手たちの事情も、懐古に向かう理由の1つ。また、アレンジを加えているのは、「『安易な懐古主義』という批判を避けたい」という狙いもあるようです。
もちろん、「名作を令和の時代に継承していきたい」という純粋な思いもあるでしょう。だからこそ、「現在の人々が親近感を抱く、現在の人気俳優で」「進化した映像技術を駆使して」などのアレンジが採用されているのです。
「比較的リスクの少ない動画配信サービスのコンテンツならいいのではないか」というメディアの広がりもあり、今後も懐古アレンジの流れは広がっていくでしょう。
◆過去作とつながりを作るキャスティング