保守、改憲、親米、改革……安倍首相がさまざまな面で模範とした政治家が101歳で大往生した大勲位、中曽根康弘氏だった。しかし、氏が遺した言葉や足跡を見るにつけ、この2人の違いが浮き彫りになる。
「安倍君は自分の人事、あるいは人を信用するということについて、厳しい反省をした。押し寄せた感情を正直に出し、人情家の一面が露呈した。ただ、総理として慣れていれば、個人的感情を抑えることができたかもしれない」
「桜を見る会」の出席者問題や相次ぐ閣僚の不祥事についての箴言に聞こえるこの言葉は、今から12年前、「消えた年金問題」や同じく閣僚の不祥事に苦しんでいた第一次政権時代の安倍首相に向けて、本誌・週刊ポストで中曽根氏が語った言葉だった。
このとき中曽根氏に取材を申し込むと、「移動する新幹線の中でなら受けてもいい」という条件で話を聞くことになった。当時89歳ながら駅の階段を早足で上がり、新幹線の車内でも決して椅子を倒そうとしない。「安倍晋三君への叱咤」と題したそのインタビュー(2007年6月29日号)で、中曽根氏は安倍氏の弱点をこう喝破した。
「小泉(純一郎)君はいつも鎧兜を身につけていたが、安倍君は普通の着物をきているだけだ。なにしろ新聞記者諸君は雨あられのように弾を撃ってくるから、総理大臣たるものその心構えがいる。安倍君はまだ経験が足りないようだね」
中曽根氏の憂慮虚しく、3か月後に退陣となった安倍首相。今再び苦境に立つなか、この言葉はどう響くのだろう。
政治家の悪口を口にすることがなかった中曽根氏が、珍しく本誌に現役政治家たちへの不満を吐露したこともあった。