「EU離脱」が主な争点となったイギリスの総選挙は与党・保守党が圧勝し、同党が公約とした早期離脱へ向けて動く見通しとなった。ブレグジットについてここまで長く膠着状態が続いていた理由の一つに、北アイルランドをめぐる問題がある。ジャーナリストの池上彰氏が解説する。
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ブレグジット(イギリスのEU離脱)に際してイギリスとEUとの離脱交渉でいちばんの争点となったのが、アイルランドとの国境問題です。日本人にはわかりにくい問題かもしれません。
イギリスというと、グレートブリテン島ばかり思い浮かべがちですが、アイルランド島の北部の北アイルランドもイギリスです。1949年のアイルランド独立以降、北アイルランドではカトリック教徒とプロテスタント教徒が対立し、テロや激しい衝突が繰り返されてきました。アイルランドと一体になりたいカトリック側のIRA(アイルランド共和軍)とイギリスの一部でありたいプロテスタント側のアルスター義勇軍の争いは泥沼化し、北アイルランド紛争に発展。30年に及ぶ紛争は1998年のベルファスト合意によってようやく収束しました。
以来20年間、この地域が落ち着いていられたのには、イギリスとアイルランドがEUに加盟していたからです。国境がなく、人とものの行き来が自由であることで平和が保たれていました。ところが、イギリスがEUから離脱することになり、再び国境付近に検問所が置かれ警備や取り締まりが始まるようなことになると、紛争の火種となるのではないかという懸念が膨らんでいったのです。このアイルランドとの国境問題を解決する方策がまとまらないため、離脱交渉は混迷をきわめ離脱期限を3回延長する事態となりました。
私は先日、離脱問題の焦点となっている北アイルランドを訪れ、現地の今を取材してきました。日本にいてはわからない住民感情を知ることにもなりました。
北アイルランドの街でカトリックの人に「Are you a British or an Irish?(あなたはイギリス人? それともアイルランド人?)」 と聞いたら「One hundred percent Irish!(100パーセント、アイルランド人だ!)」と返ってきました。その言葉からは「私は他国に支配されているアイルランドに生まれた」という気持ちが読み取れます。