誰もが夢見るものの、なかなか現実にならない夢の馬券生活。調教助手を主人公にした作品もある気鋭の作家、「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆する須藤靖貴氏が、本気で競馬に勝ちに行くため、パドックでは馬の“どこ”を“いつ”見るのが肝心かについてつづる。
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勝つ馬はその集団のボスである。ミステリー小説ならばホンボシ探しのようなものだ(だから面白いんだな)。ファンはそれぞれが灰色の脳細胞を持つ名探偵ということになりましょうか。競馬場は総名探偵状態だ。
競馬新聞の情報だけを頼りにする安楽椅子探偵も悪くないけど、私の好みは行動派のハードボイルド。トレンチコートに身を包んでパドックを鋭く睨むフィリップ・マーロウと洒落込みたい。馬券を取ったらギムレットだ!
捜査関係者の見立ては出そろっていて、容疑者には書類に印が打ってある。だが彼らはパドックを見ていないのである(ここ、けっこう大事だよなぁ)。小説の場合、○○警部らの推理はたいてい見当(検討?)外れだ。最後にホンボシの顔に人差し指を突きつけるのは私だ。
鋭い眼差しの先は? オッズなどが載る電光掲示板などに目を向けてはならぬ。単勝1倍台とか50倍超となっているのが頭に入ると、どうしても馬を見る目にバイアスがかかる。
馬体の張りなどを踏まえた上で留意点は二つと、ある調教師は教えてくれた。
「じっとエネルギーをためているか」と「人間の指示に従順か」。
前者について。馬が蓄えているエネルギーはレースでの激走分のみ。パドックで興奮して消耗していては芳しくない。チャカつく、妙に首に力が入る。尻っパネをする。前進気勢に乏しくエネルギーそのものも怪しい馬も周回を眺めていればわかってくる。難しいのは後者だ。