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「懲役系YouTuber」視聴で人生の幅が広くなった気になれる

写真は府中刑務所(時事通信フォト)

 異世界を知るのはメディアのコンテンツを通じてであることが多い。メディアの多様化によって、容易に触れることのできる情報も広がった。コラムニストのオバタカズユキ氏が注目しているYouTuberについてレポートする。

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 もう今年も師走の半ば。どこの業界からもあまり景気のいい話が聞こえてこないが、ユーチューブの世界は活況を呈しているようである。YouTube総研なるシンクタンクによると、動画広告市場は2020年に2000億円を突破する勢いだという。インターネット広告市場全体も大きく成長し続けているが、その中でも動画の伸びは著しい。

 そんな動画配信プラットフォームの代表格であるユーチューブの世界に、今年はお笑い芸人など有名人の参入が相次いだ。そして、これまでは子供や若者向けのエンターテイメント系番組が主流だったのが、細分化が急速に進み、ありとあらゆるジャンルやスタイルの番組が出そろってきた。

 私がここ最近、暇を見つけては視聴を楽しんでいるのは、懲役系ユーチューバ―の動画である。刑務所に服役した過去があり、その経験談を中心とした動画を配信している人たちのチャンネルだ。服役体験や自ら犯した犯罪をネタにしているユーチューバ―は何人もいる。が、それを軸とする専門チャンネルを開き、しっかりとした内容の動画を配信し続けているのは、私の知る限りまだ2つのチャンネルだけだ。今回はそれらを紹介したい。

 まず、挙げるべきは「懲役太郎チャンネル」。2018年7月14にスタートした番組で、半年ぐらい前までは知る人ぞ知る存在だったのが、いまではかなり有名どころとなっている。原稿執筆時現在のチャンネル登録者数は10.1万人だ。

 所属事務所のupd8の紹介文によると、〈出所が近いという事で篤志面接委員から許可をもらい、職業訓練としてシャバで大人気だというYouTuberを始める。刑務所から出られないため、管理は協力者に任せており、本人はVtuberの事もよく知らない。刑務所の中にいるからこその懲役知識と、世間知らずな一面が特徴。模範囚〉とのこと。そういう「設定」で動画づくりを行っている。

 懲役太郎チャンネルの演者である懲役太郎さんは、バーチャルタレントだ。ほとんどの動画では刑務所の面会室にてアクリルの板越しに、白黒の縞模様の囚人服を着た、丸刈り頭で右の額に縫い傷がある男の絵が、こちらに向かってひとり喋りを続ける。

 番組はまず、「前科三犯、893番、懲役太郎です」というお決まりの挨拶から始まる(893番というのは称呼番号)。なかなか迫力のあるダミ声で、話に熱が入って来ると音程が高くなる。懲役太郎さんの「正体」は明らかにされていないが、話の内容などから察するに年齢はおそらく50代、また、その道について非常に詳しいことから証拠番号通りにヤクザ経験があるようだ。

 という紹介の仕方だけだと怖い人イメージばかりが浮かんでしまうが、懲役太郎さんはフェアを重んじる知的なおじさんである。豊富な人生経験から「懲役太郎電話相談室」なるものも設けていて、「犯罪に巻き込まれた」「学校でいじめられている」「親知らずが生えて痛い」などなど、どんな相談でも電話で受け付けている。有料で料金は1000円~。この無料バージョンがこれまで3回動画としてアップされていて、それらを視聴すると、相談者の入り組んだ話を「つまり、ご相談はこういうことですね」と要約してまとめる力に頭の良さを感じる。相手の気持ちに寄り添う共感力も高く、下手な心理カウンセラーにかかるより、心の悩みがあったら懲役太郎さんに相談したほうが早いのでは、といった気になってくる。

 ほぼ毎日1本ペースで配信してきた動画の中で、これまで一番の81万超の視聴回数をかせいだ「死体は山には埋められない、その理由」では、〈山に行って死体を埋めるほどの穴を掘るというのはものすごく大変なことなのです。できないです〉と結論づけてから、以下の理由を話していた。

〈山というのは岩盤の上に腐葉土、葉っぱや枯葉が堆積して、長年経ってそれで土が出来ている形になっているし、木の根もあれば草も生えているんで(中略〉動物が来て死体を掘り起こしてはいけないということは、最低1メートル(中略)かなり大きな穴を掘らないといけないんですよ。自分の腰が浸かるほど。こんなことは普通の土でも無理なんですよ。だから、想像力が足りないというか、だから計画性がないということになるんです〉

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