東大出の切れ者で、鮫島とは妙な相性のよさを感じさせる浜川。タイを拠点に幅広くビジネスを手がけ、日本へは中国残留孤児二世三世の互助会から派生した〈金石〉経由で北朝鮮産の覚醒剤を卸す、慎重で冷酷な陸永昌。その永昌を手玉に取る〈新本ほのか〉始め、国家そのものを憎み、表と裏の顔を使い分ける金石の面々。永昌と内々に通じ、華殺しの捜査ごと横取りした公安や、鮫島とは同期の元キャリアで現在は内調の下部機関〈東亜通商研究会〉に籍を置く〈香田〉など、主役を食うほど筋も信念もある脇役陣が魅力的なのも、本シリーズならではだ。

「当初は敵役だった香田が、〈思い通りにならないと、すぐ顔にでる〉〈お前はきっと、勉強のできた小学生の頃から中身がかわってない〉と鮫島にイジられたり、今回はイイ味出しています。香田には香田、永昌には永昌の筋や正義があって、その衝突が物語を生む以上、俺はどんな端役であっても存在理由はあると思う。そして出した以上は全員に決着をつけさせたいんです」

 鮫島はその後、北絡みのある密輸品を華が運んでいた事実をつかむが、品物はどこにもなく、中身も謎のまま。折しも何者かに拉致された権現の行方を追う鮫島と浜川や、各々の思惑から品物を狙う香田や永昌やほのかなど、物語は全キャスト総出の宝探しを経て、衝撃のラストへと向かう。

「荷物の中身や公安の動きも含め、これは全部フィクション。でも全部あっておかしくない話です。それこそ国益の名の下に行われる違法行為なんて珍しくもない。個人レベルの善と国家レベルの善が必ずしも一致しない中、これはその難しさと鮫島がどう向き合い、どう筋を通すかを巡る序章なのかもしれません」

〈国とは、人間の集まりなのか。人間の容れものなのか〉とある。その答え一つでも選択や行動が分かれる世界にあって、新生鮫島の闘いはまだ始まったばかりなのだ。

【プロフィール】おおさわ・ありまさ/1956年名古屋市生まれ。慶應義塾大学法学部中退。1979年「感傷の街角」で小説推理新人賞を受賞しデビュー。1991年『新宿鮫』で吉川英治文学新人賞と日本推理作家協会賞。1994年『無間人形 新宿鮫4』で直木賞。2004年『パンドラ・アイランド』で柴田錬三郎賞。2010年日本ミステリー文学大賞。2014年『海と月の迷路』で吉川英治文学賞。2001年『心では重すぎる』、2002年『闇先案内人』、2006年『狼花 新宿鮫9』で日本冒険小説協会大賞など受賞・著書多数。

◆構成/橋本紀子 撮影/国府田利光

※週刊ポスト2019年12月20・27日号

暗約領域 新宿鮫XI

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