臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々を心理的に分析する。今回は、2019年の印象的な謝罪会見をまとめて分析。
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平成から令和に元号が変わった2019年も数多くの謝罪会見が行われたが、その中にはさらなる物議を醸すことになったものも多い。今年の会見を振り返り、その違いを考えてみた。
芸能界では、不倫だけでなく違法薬物所持による謝罪会見も多く、その度にその謝り方が話題になった。音楽家で俳優のピエール瀧さんは保釈後にカメラの前で深々と頭を下げたが、元KAT-TUNの田口淳之介さんは土下座。そこまでやるのかと賛否両論が巻き起こった。闇営業問題では芸人の宮迫博之さんらが涙の謝罪会見を開き、それを受けて吉本興業の岡本昭彦社長が5時間半にわたる謝罪会見を開いたが、長時間のわりに問題の真相がよくわからず批判を浴びた。だらだら続けても集中力は長くは続かないし、人は曖昧性を嫌う傾向がある。マイナス要素の多い会見で、印象は悪くなるだけだった。
企業の不祥事では、セブン&アイ・ホールディングスのスマホ決済サービス「7pay(セブンペイ)」が、不正アクセスの発覚でサービス開始4日でつまづき、小林強社長が謝罪。会見では、スマホ決済の基本的なセキュリティーである「二段階認証」について問われた小林社長が、「二段階認証?」と頭を傾げてつぶやいたことで、危機管理意識の甘さが露呈。セブンペイは早々に終了した。
関西電力では、経営幹部20人が福井県高浜町の元助役から約3億2000万円相当の金品を受領していたことが発覚し、八木誠会長と岩根茂樹社長が会見。「金貨や金品の出所は承知していなかった」と一貫して主張し、話したくないことには口をしっかりとつぐんだ。第三者委員会の調査は約700人にも及んでおり、「原発マネー」の根深い問題が浮き彫りに。結論はまだ出ていない。
教師同士のいじめが発覚した神戸市立東須磨小学校では、仁王美貴校長が謝罪。壮絶ないじめも“トラブル”と捉え、「いじめである認識が欠けていた」と話した。どの会見も、当事者意識の低さや、リスクを正しく認識し適切に対応する能力“リスク・リテラシー”が欠如していた。また、その裏には、見たい物しか見ない、知りたいことしか知ろうとしないという「認知バイアス」が潜んでいた可能性もある。
認知バイアスが働いた会見だと、見ている方は誰に対して謝っているのか、何について謝っているのか、そもそも謝罪する気があるのかさえわからなくなり、世間から反感を買うことになる。今年起きたこれらの会見はその典型と言っていいだろう。